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「"腹落ち"させる力」が日本人リーダーは弱すぎだ 「トップの言葉」現場で働く人に響いてますか?

東洋経済オンライン / 2024年8月23日 14時0分

世界的宗教の開祖であるイエスも、ムハンマドも、釈迦も、ひたすら語り続けた人物である。その言葉が人々を腹落ちさせたからこそ、巨大な宗教へと発展していった。

たとえば中東クライシュ族の一商人にすぎなかったムハンマドは、西暦610年のある日、大天使ジブリールに出会い、唯一神の啓示を受けて、その言葉をひたすら何度も人々に伝えていった。

自身が神の言葉に腹落ちし、それを説き続けたからこそ、イスラム教は国を動かすような、世界的宗教になっていった。

これは、企業経営も同じだ。『宗教を学べば経営がわかる』の対談ではリクルートの事例を取り上げているが、本記事では、ソニーを復活させた平井一夫社長を取り上げよう。

社員同士で「ソニーらしさの解釈」が異なる事態に

創業者の井深大と盛田昭夫が亡くなって時が経ち、ソニーでは同社の理念をめぐって社内が割れた時期があった。

多くの方が覚えておられるように、ソニーは2000年代に入って創業以来の主力であったエレクトロニクス部門が低迷し、会社全体が厳しい状況になってきた。一方、金融事業は収益が上がり始めていた。

すると、「ソニーはエレクトロニクス」にこだわる人たちと、金融を含め多角的な経営を志向する人たちとの間で対立が生じてしまった。

「ソニーとは何の会社なのか」をめぐるアイデンティティが揺らぎ、社員同士で「ソニーらしさ」についての解釈が異なるという事態を招いたのだ。

実際、当時私も何人ものソニーの幹部や社員に会って「ソニーとは何か」を問いただしたが、その答えはバラバラだった。

「ソニーとは何か」が多義的だったのだ。

経営危機を迎えたソニーだったが、2012年に平井一夫氏が社長に就任すると、彼は「ソニーは感動(KANDO)の会社である」と理念を定めた。

私が平井氏から直接うかがったことだが、同氏は朝起きたらKANDO、ご飯を食べたらKANDO、風呂に入ってもKANDOというくらい、まず自分自身にKANDOを言い聞かせたという。

そして、世界中どこへ行っても、どの会議でも口にし続け、理念を浸透させていった。

よく考えれば、ソニーが手掛けているエレクトロニクスやセンサー技術も人を感動させるためのものだし、エンタメは言うまでもない。金融だって人生に感動を与えられる、と解釈できる。

「KANDO」という言葉に集約し「腹落ち」を促した

多義的になっていた「ソニーらしさ」の解釈をKANDOという言葉に集約し、平井氏がそれを語り続けたことで、一人ひとりのセンスメイキングにつながり、5000億円を超える巨額赤字を抱えていたソニーは復活を遂げたのである。

ソニーの復活は、平井氏がセンスメイキングを浸透させていったことが背景にあるのだ。

平井氏は創業者ではないが、井深、盛田という偉大な創業者が作ったソニーという宗教を、「KANDO」という言葉で再定義し、解釈を揃えて「腹落ち」を促した中興の祖と言える。

キリスト教で言えば、形骸化していたキリスト教を再定義して、プロテスタントの興隆を引き起こしたマルティン・ルターのような存在と言えるかもしれない。

入山 章栄:早稲田大学ビジネススクール教授

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