「脱炭素を通じて社会変革」。先進企業に学ぶ戦略 迫り来る「5つの変化」を、ビジネスの好機に
東洋経済オンライン / 2024年8月23日 9時0分
ここで、「生産性が変わる」「エネルギーの作り方が変わる」「素材利用が変わる」の3つの変化は、企業単独での取り組みによる変化が中心的である。そのため、これらの変化を拡大するには、「ルール・インフラ」と「マーケット・マインド」の変化が欠かせない。
たとえば、「エネルギーの作り方が変わる」の好機である太陽光発電や洋上風力発電に関わる取り組みを拡大する際に、再生可能エネルギー電力を優先的に活用できるルールが整備されれば、再エネを効率的に活用するデマンドレスポンスも促進され、再エネ発電設備を拡大しやすい事業環境へとつながるという好循環が生まれる。
つまり、3つの変化に関連する先行事例に基づく経験・知見を基に、「ルール・インフラ」「マーケット・マインド」という2つの土台となる変化も促していく。
土台が変わっていくことで、先の3つの変化もさらに促されていくというように、5つの変化の間で相乗効果が生まれ、社会変革へとつながる。これは、先述の社会変革に向けた理論的枠組みを体現するものである。
また、「IGES 1.5℃ロードマップ」では、企業が事業戦略を構築する際の参考情報として、それぞれの20の好機が発展していく5年ごとのマイルストーンを示している。
20の好機に該当する企業の取り組み事例
ここからは、「20の好機」を実際に活かしている企業の事例をいくつか紹介する。
最初に鉄鋼部門における先進的な取り組みが1.5度目標達成への道筋へと発展していくストーリーについて見ていきたい。
現在の日本の製鉄は、鉄鉱石を原料とする高炉による生産方式が主流であるが、その過程で石炭を利用するためCO2を多く排出する。これに対し電炉は、鉄スクラップを原料とし、電気エネルギーで製鉄を行うことから、CO2排出量を低く抑えられる技術である。しかし、電炉は多くの電力を利用するため、電力コストの抑制が経営課題となっている。
さらに、電炉では比較的安価な夜間電力を利用するために夜間操業を行っており、従業員の負担も大きい。また、鉄スクラップの品質向上も課題となっている。
こうした課題に関しての、電炉による鉄鋼製品の生産量が日本最大である東京製鉄の取り組みを取り上げる。
東京製鉄は、電力会社との連携を通じて太陽光発電などの再エネの発電量を予測し、割安な昼間の余剰電力を購入することで電力コストの削減を行いつつ、再エネ利用拡大を図っている。
これにより、環境に優しい電炉鋼材の生産拡大を通じた脱炭素・循環型社会の実現に寄与している。さらに、ビッグデータとAI技術を利用して、鉄スクラップの自動解析を行い、仕分け作業の効率化にも取り組んでいる。
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