静岡が「缶詰王国」に上りつめた明治期からの軌跡 有名企業が本社を置く知られざる缶詰の一大産地
東洋経済オンライン / 2024年8月25日 8時0分
戦時中、清水港は軍事拠点ではないものの、軍港としても機能していた。工場があって、東亜燃料工業(東燃ゼネラル石油の前身)もある。缶詰を作るために必要なものが揃っていたことも、この地域を缶詰製造の一大産地たらしめた要因だったという。反面、缶詰が大きな生産品となったことで、蘭字の文化はなくなっていくことになる。
現在、ツナ缶の市場規模は年間で約800億円と言われている。国内産のツナ缶の98%は、静岡県(静岡市と焼津市)の会社によって製造されているそうだ。缶詰王国は、ツナ缶王国。だが、「それ以外にもさまざまな缶詰を作っているんですよ」と川隅さんは語る。
「たとえば、みかんの缶詰。まぐろのシーズンは4月~9月の間ですから、夏以外にも工場を稼働させたい。そこで、静岡県はみかんの産地でもあるので、冬の期間である10月~3月はみかん缶を作るようになりました。年間を通して工場の操業が可能になったことで、缶詰産業は静岡県の地場産業となっていくんですね」(川隅さん)
お茶からまぐろ、そしてみかんへ。静岡の缶詰には、歴史が詰まっているというわけだ。
缶詰が戦時中の雇用を支える
缶詰の製造で大事なことは、次の3つの工程だ。
1つ目が「脱気」と呼ばれる空気を抜くこと。2つ目が、空気や菌が入らないようにしっかり蓋をする「密封」。最後が、高い熱で缶の中の菌を死滅させる「殺菌」。この3つのプロセスを極めることで、缶詰は長期間の常温保存が可能となり、さまざまな食品を缶詰化することに成功する。
フェルケール博物館には、缶詰記念館という小さな建物がある。
「缶詰記念館は、日本で初めてマグロ油漬缶詰を製造し、アメリカに輸出した清水食品株式会社の創立当時の本社社屋を移転、補修したものです。言わば、静岡市の缶詰産業がスタートを切った建物です。昭和40年代になると、港周辺は整備され、港の風景も変わってきました。清水港の歴史を伝え広める、それがフェルケール博物館の理念でもありました」(前出・椿原さん)
博物館の一隅に目をやると、印象的な女性の顔をモチーフにした石碑が飛び込んでくる。
「戦時中は、缶詰工場でたくさんの人が働いていました。静岡県缶壜詰協会(1951年に静岡罐詰協会に改組)は労務協議会を設置し、戦後、初給賃金などを記載した『静岡缶詰協会員初給賃金協定』を締結します。最低賃金のはじまりであり、労働者のセーフティーネットを設けるという取り組みの先駆けでもありました」(椿原さん)
国会で最低賃金法が成立したのは、1959年のこと。その4年前に「静岡缶詰協会員初給賃金協定」が結ばれていたことを鑑みれば、静岡の缶詰産業が果たした功績は計り知れない。
小さな缶詰がこれほどまでに大きかったのかと缶嘆 (感嘆)する。缶詰の物流は、そのまま時代の流れを表していたのだ。たかが缶詰、されど缶詰。缶詰の世界は奥が深いのだ。
我妻 弘崇:フリーライター
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「4種類のマグロ」、どれが“値段が高い”か分かりますか?プロに聞く「マグロ」の見分け方
日刊SPA! / 2025年1月11日 15時54分
-
【賀詞交歓会】2025年の県内経済見通しは?県内企業トップが一堂に会した現場で直撃取材(静岡)
Daiichi-TV(静岡第一テレビ) / 2025年1月8日 17時18分
-
京都の老舗「丸久小山園」の年末年始限定のお茶「大福茶」で、邪気を払い一年の健康を願う
IGNITE / 2025年1月1日 12時0分
-
あなたの理想の紅茶を。オリジナルの紅茶がつくれる「有名産地の個性を楽しむ紅茶のブレンド体験」開催
PR TIMES / 2024年12月23日 13時15分
-
【地震の謎に挑む異形の船】地球深部探査船「ちきゅう」が宮城沖での掘削調査終え清水港に帰港(静岡)
Daiichi-TV(静岡第一テレビ) / 2024年12月20日 17時27分
ランキング
-
11時間半の山越えバスが“タダ”!? 岐阜山間部の2大都市を結ぶ無料シャトルバス運行
乗りものニュース / 2025年1月15日 14時12分
-
2「来週会合で利上げ判断」=米新政権政策、賃上げ注視―植田日銀総裁
時事通信 / 2025年1月15日 16時8分
-
3裏切られた気持ちでいっぱいです…月収25万円・65歳サラリーマン、毎年「ねんきん定期便」を必ずチェック、年金月19万円のはずが「初めての年金振込日」に知った衝撃事実に撃沈
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月15日 8時15分
-
4悪質なデータ復旧事業者「レスキュー商法」の手口 多発する「納得できない作業結果と費用請求」
東洋経済オンライン / 2025年1月15日 8時0分
-
5《三菱UFJ銀行》10億円を奪った元行員・今村由香理(46)の夫は“4.5億円資産家”だった 駐車場収入も「奥さんが徴収に来ていましたよ」
文春オンライン / 2025年1月15日 16時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください