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「人はなぜ老いるのか」物理が導き出した答えは? 「水とインク」の実験から時間の流れを科学する

東洋経済オンライン / 2024年8月28日 17時0分

一方、エントロピーが大きな状態だと、エネルギーは無秩序に存在しているので、利用しにくくなってしまいます。

なので、私たちが「エネルギーを節約しましょう」と言っているときは、実は「エントロピーを上げないようにしましょう」と言っているということなのです。それが物理学的に言う「エネルギーを節約する」という意味です。

エネルギーを効率よく使うためには、なるべく秩序ある状態にとどめ、エントロピーの小さい状況にしておくことが大切なのです。

元々は産業革命期に「蒸気機関を効率的に活用するためにどうすればいいか」という社会からの要請で生まれた熱力学が、統計力学へつながり、それが時間という、私たちの世界の根源的な仕組みにも絡んでいるのは不思議で興味深いことです。

「時間が進んでいる」についての考察

統計力学的な考え方を元に、もう少し時間について考察していきましょう。

たとえば、先ほどの水とインクの例でいうと、インクを水に垂らして、それが広がって、水全体がピンク色に染まるとき、私たちは時間の経過を感じることができます。

でも、水がピンク色に染まったあと、ずっとその状態から変化がないように見えるとき、「時間が進んでいる」といえるでしょうか。

実際には、同じピンク色に見えていても、分子レベルで見ると、水分子とインクの分子は絶えず動いているので、そういう意味では、時間は流れています。しかし、私たちはその動きを認識できない。……なんだか話が複雑になってきました。

つまり私たちが通常「時間が進んでいる」と呼んでいるものは、マクロな世界に統計的に表れているものにすぎないのではないかということです。

赤いインクを垂らして水がピンク色に染まっていく過程に私たちは時間の一方向性を感じるけれど、実は、単に分子が方向性も何もなくランダムに入れ替わっているだけで、(可能性は極端に低いけれど)インクを垂らした瞬間の状態になることもある。

ピンク色に染まり切った水に私たちは時間の経過を感じないけれども、実は分子レベルでは状態は常に変化し続けている。

「時間が進んでいる」と感じているだけ

このように、視点を変えると、根本的なレベルにおいて「時間の一方向性」は存在していないことに気づきます。

私たちは、統計学的に起こりやすい方向、つまりエントロピーが増大する方向に進んでいくことを「時間が進んでいる」と感じているだけなのです。

こういった視点から見ると、時間の流れの一方向性が単なる人間の認識であり、実際には存在しないという見方ができます。時間に方向性があると感じるのは、私たちが世界を認識する仕方に伴う結果なのです。

ここに私は統計力学の面白さを感じます。

相対性理論や量子力学に基づいた時間の遅れや重力の話はたしかにワクワクします。しかし、時間の根源的な謎に迫ろうとすると、全体の動きを大まかに把握する統計力学が必要になるのです。

野村 泰紀:カリフォルニア大学バークレー校教授

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