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障害者雇用「代行ビジネス」と批判、農園就労の今 本人が納得して選び、やりがいを得ているのか

東洋経済オンライン / 2024年9月3日 8時0分

障害者たちは笑顔を交えながらも、真剣な表情で植物を世話していた。ここで生産したハーブ類はティーバッグなどに加工し、顧客企業が自社のノベルティなどに活用。ある石油会社のブースには、バジルを使ったパスタの写真が、「ごちそうさまです」とのメッセージと共に貼ってあった。

土埃の舞う農場に隔離された障害者が、黙々と単純作業をこなす――。記者が抱いていた、そんな事前のイメージはいい意味で裏切られた。施設を運営するスタートライン社(東京都三鷹市)の西村賢治社長はこう語る。

「顧客の雇用率を達成させる目的で障害者を集め、ケアの不十分な農園があるのは残念ながら事実。ただ、そうした業者は今後、淘汰されるのではないか。障害者を雇いたい企業は多い。よりよい環境を求めて施設を移る人も増えており、『ここで働きたい』と思われなければ生き残れない」

障害者雇用支援でパイオニア的な存在

スタートライン社は2009年に設立し、「障害者雇用支援」という市場を切り開いてきたパイオニア的な存在だ。創業時から手がけるサテライトオフィスに加え、2017年に農園も始めた。現在はこの2事業で計30を超える拠点を構え、約1800人の障害者が就労する。

念願の株式公開を目前としていた2023年1月、前述のエスプール・ショックが起こり、風評の悪化から上場を取りやめた。「元々、賛否両論ある事業なのは自覚していた。ただ、それにしても非難があまりにも大きかった」(西村社長)。

農園を選ぶ障害者の多くは、社会人経験がないか少なかったり、心身の調子が安定していなかったりする。

こうした人たちは従来、福祉系の作業所に通ってわずかな工賃を得ていた。厚労省の調査によると、一般企業への就職が難しい人向けの「就労継続支援B型」では、通所者へ支払った2022年度の時給平均額は243円だった。

西村社長は「就労の新しい選択肢を提示したかった」と、この事業を始めた動機を明かす。スタートライン社の農園に在籍する障害者の待遇は、その地域の最低賃金と同程度だ。それでもB型作業所よりは高い。企業に所属するので職歴を得られ、福利厚生も受けられる。

世間からの理解を得るために、西村社長は業界の健全化に乗り出す決意を固めた。スタートライン社が中心となり、2023年9月、障害者向けの農園やサテライトオフィスを提供する事業者の業界団体「日本障害者雇用促進事業者協会(促進協)」を創設したのだ。

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