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障害者雇用「代行ビジネス」と批判、農園就労の今 本人が納得して選び、やりがいを得ているのか

東洋経済オンライン / 2024年9月3日 8時0分

スタートライン社は元々、障害者への支援技術を開発するための研究機関を自前で設けている。学者や臨床心理士ら9人の研究員が所属し、学会で論文を発表した実績も豊富だ。蓄えた知見は自社のサービスに取り込んできた。

促進協ではノウハウを会員企業に共有するほか、2カ月に1回のペースで勉強会を開催。6月の会合では、50人ほどを収容できる貸し会議室が満席に。オンラインでの聴講者もいて、「障害者の業務をどう適切に評価するか」とのテーマで活発な議論を交わした。

農園での雇用をどう考えるのか

会員企業は発足時の6社から現在は16にまで増えた。一方、エスプールをはじめとした一部の主要な事業者は加盟しておらず、業界内にも温度差があることをうかがわせる。

また、どれだけ障害者の就労環境を改善したとしても、「農園での作業は経済活動への参加とは言えない」「会社の本業とは無関係のことをやらせている」との指摘はなくならないだろう。いずれも事実だからだ。

促進協の理事長を務める西村社長は、どう感じているのか。記者が直撃すると、次のような答えが返ってきた。

「一般企業の中にも社会貢献やCSRに関わる部署で働く人がいる。彼らは売り上げを立てないが、無意味な仕事とは思えない。最も大切なのは障害当事者の気持ち。本人が納得して農園を選び、やりがいを得ているのであれば、そこに価値を見いだせるはずだ」

さらに「顧客の障害者雇用への意識は極めて高い」とも強調。すでに自助努力を尽くした企業が、新たな受け入れ手段として農園を使うケースがほとんどという。「最初からすべてを施設側に丸投げしようとする会社もゼロではないが、その場合はこちらから取引を断っている」(西村社長)。

選択肢は1つでも多いほうがいい

では、当事者側の受け止めはどうなのか。スタートライン社は7月、東京・八王子市立宮上中学校の特別支援学級で出前授業を開いた。生徒と保護者の計35人ほどの前で、農園での就労や障害者雇用の現状を紹介した。

自閉症を抱える3年生の男子は「仕事はつらいものだと想像しており、これまでは将来に希望を持てなかった。自分に合った働き方を選べると知れて安心した」と話した。知的障害の息子を持つ母親も「親は子供より早く死ぬ。自立できるのか、本人の将来が心配。長く働ける環境はありがたい」と肯定的だった。

保護者たちの農園への反応には濃淡があったものの、共通していたのは「選択肢は1つでも多いほうがいい」という意見だ。その視点に立った冷静な議論こそが、日本の障害者雇用を前進させるカギなのかもしれない。

石川 陽一:東洋経済 記者

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