「人口8%増」豪州の超田舎町を訪ねたら凄かった 「産直」ならぬ「人が産地へ」が地方再生のカギに
東洋経済オンライン / 2024年9月4日 11時0分
たとえば、途上国や最貧国の人たちから「搾取的な価格で入手した素材」ではなく、「適切な価格を払ったもの」を用いる「フェアトレード」なども食の背景を知る手段の1つ。日本の道の駅などで売られる農作物によく見られる、生産者名と顔写真を記した「生産者開示」もまたしかりだ。
実際、オーストラリアのレストランでは「タスマニア州で捕れたサーモン」とか、「モートン湾産のカキ」とかのように、産地が明記されることも増えている。
だがそれだけでなく、「その場所に出かけていって、景色や空気とともに楽しむ。それがガストロノミーの1つの形だと思います」(マッツさん)。
たとえば、モーツァルトの音楽は聴くだけでも楽しいが、彼の生い立ちやその曲が生まれた背景を知れば、より深く味わえるようになる。加えて、彼が生まれ育ち、活躍したオーストリアのザルツブルクやウィーンなどの地で彼の音楽を聴けば、より感動的な体験へと深化する。それと同じことなのだろう。
欠かせない「協業者」の存在
ただし、それはマッツさんのようなシェフだけでできる話ではない。
「素晴らしい食材を生産する場所でなければ、ガストロノミーツーリズムは成立しません。幸いなことに、ギップスランドは質のいい農作物や魚介類の宝庫ですし、乳製品の名声はオーストラリア中に知れ渡っています。もちろんそれは生産者あってのことです」(マッツさん)
ほかにも協力者は必要だ。彼が住むレイクスエントランスはメルボルンから長距離列車なら約5時間、車でも約4時間かかる。日帰り圏内ではなく、宿泊が必要となる。
「最近では牧場オーナーの方などが自然豊かな敷地内に小規模なグランピング施設も作ることが増えていて、私たちのような地元のレストランの利用をゲストに勧めてくれます。ガストロノミーツーリズムにはこうしたスモールビジネスとの協業が欠かせません」とマッツさんは言う。
ほかにも、カフェの片隅で地元の製品を売るのは、ギップスランドではよく見られる光景だ。
地元の農作物や、それを使った食べものの良さが伝われば、人々はますますここに来てくれる。回りまわってレストランやカフェ、グランピング施設の利用者も増え、地域全体の産業が盛り上がる。
仕事の創造がIターンやUターンを促す
地域の産業が増えれば、人口増という副次的な効果をもたらす。
過疎化の主な原因は仕事の少なさにある。「ガストロノミーツーリズムのおかげで、ギップスランドにおける仕事のバリエーションは増えました」とマッツさん。
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