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「人口8%増」豪州の超田舎町を訪ねたら凄かった 「産直」ならぬ「人が産地へ」が地方再生のカギに

東洋経済オンライン / 2024年9月4日 11時0分

以前は農業などの第一次産業が主だったが、マッツさんのようにレストランを営む人や、グランピング施設の運営を始める人も出てきた。

「ほかにも、今までここでは成立しなかった産業が生まれています。たとえばドライバー兼ガイドが、オススメのレストランやワイナリーを巡るツアーや送迎。マーケティングの知識を利用したスモールビジネスへのコンサルティング。これも、ガストロノミーツーリズムという概念が持ち込まれたことにより、実現できたものです」(マッツさん)

スタート地点は日本でもよく見られる「地方の食材を使った町おこし」に近いのかもしれない。

だが、単に農産物などを売るだけでなく、レストランや周辺産業が「協業」することで大きなムーブメントになる。人が人を呼び、仕事が仕事を呼ぶ。それがガストロノミーツーリズムの効果だ。

実際に都会からIターンしてきた人にも話を聞くことができた。

あるワイナリー併設のレストランでシェフとして腕をふるうターニャさんだ。彼女は「大都会のきらびやかな高級レストラン」で働いていた。

「そういう店ですから、食材もギップスランドなどから取り寄せていました。でも、それを使いながらいつも思っていたんです。こういう最高の食材が普通に手に入る場所で働けたら幸せだろうなって」(ターニャさん)

それで数年前に思い切ってギップスランドに移住したという。

「たとえば、今は日本食が世界中で人気で、メルボルンでも素晴らしいものを食べられます。それでもわざわざ日本に行って本場の日本食を食べる人は多いです。それと同じで、お客様にギップスランドに来ていただくことで、より素晴らしい食体験を提供できます」(ターニャさん)

どこで(Where)食べるかも重要

そのワイナリー兼レストランでセールスマネージャーを務めるロブさんも、「食事は素材が作られた場所で食べるのが一番です」とうなずく。

「今までは何を(What)、どう(How)食べるかばかり考えられてきました。それから誰と(With Whom)食べるか。それと同様に、どこで(Where)食べるかも重要だと思います。私にとって食べ物が最もおいしくなる場所は、『その食べ物がとれた場所』。野菜は基本的に新鮮なのが一番。とり立てのものが食べられるのは産地です」(ロブさん)

農産物や海産物ではなく、人が動く。旅行業界の視点に立てば「ガストロノミーツーリズム」とはそういうことになる。だが、ギップスランドでは旅行業界を越えた「地方再生」の流れを導き出している。

それを可能にしたのは、先にも挙げたレストランや小規模宿泊施設、ワイナリー、農業製品生産者たちによる「スモールビジネスの協業」だ。フードマイレージを考慮した地産地消。食を主軸にした「町おこし」だった。

旅行業界を越えた「地方再生」の流れ

もちろん、課題がないわけではない。なんといっても「核」となるのは、レストランやカフェで、それらが一気に増えるわけではない。つまり、ガストロノミーツーリズムは爆発的に成長する産業ではないのだ。

だが、ゆるやかかつ継続的な成長を期待できるものこそ、望ましいのではないだろうか。

「一発の打ち上げ花火でなくサスティナブルな地方再生」。今回の取材で出会った人たちの顔を思い出すと、ふとそんなフレーズが頭に浮かんだ。

柳沢 有紀夫:海外書き人クラブ主宰 オーストラリア在住国際比較文化ジャーナリスト

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