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社員の可能性を見抜けない「無能人事」の哀しみ 人事は長期的に物事を見なくてはいけないのだが…

東洋経済オンライン / 2024年9月5日 19時0分

採用の先には、その人の人生があります。配置の先には、その人のキャリアがあります。人を採ったら「はい終わり」ではないのです(写真:mits/PIXTA)

これまで1万人超の採用・昇降格面接、管理職・階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席し、アドバイスを行ってきた人事コンサルタント・西尾太氏による連載「社員成長の決め手は、人事が9割」。エンターテインメントコンテンツのポータルサイト「アルファポリス」とのコラボによりお届けする。

■組織づくりに携われるスケールの大きな仕事

人事というのは、組織づくりに携われるスケールの大きな仕事です。組織づくりは大きな会社では主に経営企画部門の仕事ですが、社内の人の流れをつかさどるのは人事です。

「休まなすぎ上司」と「休みすぎ部下」に必要な視点、休暇制度が整っていても「休めない」人がいる

採用・入社・配属(働く部署と仕事を決める)、異動(部署や仕事の変更など)・任免(責任あるポジションに任命する、あるいは外す)・休職(一定期間労務の提供を免除する)・復職(休職後に仕事に復帰する)、退職(会社を辞める)といった、社員の入社から退職までの流れ(人材フロー)をつかさどります。

「つかさどる」というのは、これらの人材フローの決定を必ずしも人事部門が行うわけではなく、「仕切る」ことを意味しています。いつまでにどのような決定をしなければならないかを決め、その期日に向かって、決定権者に決めてもらうよう働きかけることです。その意思決定のために必要な情報を提供し、その決定によるほかへの影響も伝えます。

たとえば、誰かが異動すれば、その補充人員を別の部署から持ってこなければならないかもしれません。誰かの採用を決定すれば、ほかの誰かを採用できないかもしれません。誰かの職位を外せば、モチベーションを下げ、周囲に悪影響をおよぼすかもしれません。そうしたリスクも踏まえた上で、人事異動案を策定し、決定者に決めてもらうのです。

決定権者とは、対象者の「人事権」を持つ人です。通常、人事権は直属の上司にあるとされていますが、その上司の人事権はそのまた上司にあるわけで、人事担当者が働き掛けるのは、本部長や部長といった人たちになります。あるいは最高位の人事権者は経営者ですから、経営者とのやりとりも必要です。誰がどのように「人事(採用や配置異動・任免など)」を決定するのかも、あらかじめ決めておかなければいけません。

■長期的に物事を見なくてはいけない

このような人事フローのことを、狭義で「人事」と呼ぶこともあります。「4月の人事では…」といえば、4月に誰がどこに異動・配置となるかといったことを意味します。

4月に人事を行う場合、半年くらい前から自己申告による異動希望を募ったり、経営者や経理が策定する予算づくりに携わったり、人員計画(どこの部署に、どのような人材が、どれだけ必要なのかを決定すること)がないと予算をつくれないので、その策定にも携わったりします。そして2月には組織と、そこに配置する責任者を決めてもらって、その責任者と人事異動の交渉をしていきます。

これらの(狭義の)人事は、その時点だけのものではなく、中長期的な戦略に基づき、求める人物像を設定した上で、採用・育成・配置方針を決め、これらに基づく人員計画を策定し、これが採用計画、人事異動計画、育成計画の策定につながっていきます。

人事異動を決めるのは現場の管理職ですが、人事部門も人事異動案をつくります。管理職は基本的に今年と来年のことで頭がいっぱいです。新卒を採ったとしても、その人が30歳のときにどうしているのか、40歳のときにどうしているのか、先のことまでは意外と誰も考えていなかったりします。長期的に物事を見ているのは、ひょっとすると社内で唯一、人事だけかもしれません。だからこそ人事担当者は、長期的に物事を考える視点が重要になります。

採用の先には、その人の人生があります。配置の先には、その人のキャリアがあります。人を採ったら「はい終わり」ではないのです。会社で働く人は、その先に何を目指しているのか、次に向けて今その場が意味のあるものになっているのか。「どうしたいの?」「将来はどうなりたいの?」と問いかけ、常に考えてもらい、それらを異動や配属に反映させていくのです。

■経営者の視点を常にそばで聞くことができる

その人の将来を考えたら、絶対に異動をさせるべきといった場合があります。逆に仕事ができず逃げ出したくて異動したい人もいます。そこを見極め、「人事としてはこうしたい」と強い意思を持って現場と交渉します。それが必ずしも実現するとは限りませんから、「今年はできなかったけど、来年は必ず実現するぞ」と思いながら仕事を続けていくことも大事になります。

人事異動案を実現させるために必要なのは、経営者のバックアップです。経営者と話をして「彼を異動させたら部署の直近の業績は下がるかもしれませんが、長い目で見たら今やらないとダメなんです」といったことを伝えて、異動や配置について働きかけていきます。

経営者との対話は、できれば避けたいものです(ですよね?)。それでも経営者の話は聞かなくてはいけません。喧嘩もしなくてはいけません。責任あるポジションについたら、正しいと自ら信じることに対しては、相手が社長でも役員でも管理職でもきっぱりと言わなくてはならないのです。経営者といつも意見が一致し、お気に入りであり続けるのは難しいですから、ある程度の覚悟が必要です。私も人事部長時代は常に辞める覚悟で仕事をしていました。

企業経営において長期的なビジョンや中長期的な戦略を最も考えているのは、やはり経営者です。経営者の視点を常にそばで聞くことができるのは、ビジネスパーソンとして大きな学びになります。これは人事担当者ならではの貴重な機会ともいえるでしょう。

人事部門には、社内の人の流れ(人材フロー)をつかさどる「人事・採用」、給与や福利厚生および規定関連の業務をつかさどる「給与・厚生」、評価制度と社員教育をつかさどる「育成・評価」という3つの機能があります。その他、これらの「企画機能」があります。

■可能性を見極める力がなければ人事はできない

その中でも「人事・採用」という仕事は、「可能性に賭ける」ものといえるでしょう。会社の、そして、個人の可能性を広げていく仕事です。

「その人」を採用するということは、「その人の可能性を最大限に引き出し、能力を発揮してもらい、そして会社に利益をもたらす」であろうと判断して行われます。異動・配置も同じです。「その人」の異動は、「次の部署で活躍する、より飛躍する」かもしれないと判断して行います。それが成功すれば「しめたもの」です。そして、そういう場面を見ることが「この仕事をやっていてよかった」と、人事担当者として意義を感じられるときです。

一方、「可能性に賭ける」ということは「失敗もある」ということです。私も入社や異動を口説いた結果、多くの成功もありましたが、失敗もありました。入社後まったく化けない、異動しても変わらない、問題社員化する事例もありました。

しかし「失敗を恐れて無難にこなす」という考えでは、人事の仕事は務まりません。その結果として、会社は何も変わりません。ですから「可能性に賭ける」という意識をぜひ持ってください。その上で、自分自身の「可能性を見極める力」を研ぎ澄まして、高めていってください。多くの成功例を積み上げていく、それがこの仕事の意義なのです。

また、組織がしっかりしていないと評価も育成もできません。「1人で8人の部下までしか見られないから、こういう組織単位にしましょう」「部と課の機能を明確にしましょう」といった提案ができるよう組織論も勉強しておきましょう。管理職であっても組織論を知っている人は意外と少なく、中小企業は部と課の違いも曖昧だったりするケースが多いです。

組織づくりに携わり、会社全体を正しくしていくことに関わる立場になれば、人事の仕事はますます面白くなります。会社の成長を促す。それが人事という仕事なのです。

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アルファポリスビジネス編集部

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