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日本で「アニミズム」が保存された3つの根本理由 「自然信仰」を踏まえた「地球倫理」の時代へ

東洋経済オンライン / 2024年9月6日 9時0分

第1は、アニミズム的な自然信仰といった自然観のレベルの話と、政策や社会システムに関するレベルの話は分けて考える必要があるという点である。

このことに関する、私にとって身近な、比較的わかりやすい例を挙げてみたい。

先ほども言及した本オンラインの〈「自然資本」への対応には日本の伝統文化が重要だ――SDGsと「鎮守の森」やアニミズム文化をつなぐ〉でも紹介したが、私はここ10年ほど、ささやかながら「鎮守の森・自然エネルギープロジェクト」というプロジェクトを進めてきた。これは本稿で幾度か言及してきた「鎮守の森」を、自然エネルギーの分散的整備や地域再生といった現代的な課題と結びつけ、発展させていこうという趣旨のものである。

この試みはまだ試行錯誤の状況だが、最近進展のあった事例として、埼玉県秩父市での小水力発電に関する展開がある。秩父は秩父神社の夜祭がユネスコの世界無形文化遺産に登録されたことにも示されるように、「鎮守の森」的伝統の豊かな地域だが、こうした場所において、地元の有志の方々と、私たちのプロジェクト・グループである鎮守の森コミュニティ推進協議会のメンバーが共同出資して「陽野(ひの)ふるさと電力」という会社を設立して事業を進め、幸い2021年5月には50キロワット(約120世帯の電力を供給する規模)の小水力発電設備の導入に至った。

このこと自体はプラスの成果であり、こうした試みをさらに発展していきたいと考えているのだが、一方で現実を見ると、この地域を象徴する武甲山という見事な容姿の山――秩父神社のまさに“御神体”でもある――は、石灰岩を豊富に含む山であることから、戦後一貫してセメント会社による石灰岩の採掘がなされてきており、山の形自体が無残にも大きく損なわれるに至っている。

ある意味で“神様を削って経済的利益を得ている”わけだが、セメント工場がもたらす雇用などの地元の利益にとどまらず、そこで作られたセメントそしてコンクリートで東京など大都市圏のビルや各地のさまざまな建造物が作られていると思えば、決してこれは他人事とは言えないことになる。

つまりここで指摘したいのは、日本人あるいは日本社会は、本稿で述べてきたような「アニミズム的な自然信仰」を含め、自然観や自然に対する意識といったレベルでは優れた面を多くもっているが、政策や経済社会システム、あるいは公共的な対応といったレベルになると、非常に多くの問題を抱えているという点なのだ。

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