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世界でただ1人「希少種ゴキブリ研究者」の実態 沖縄で採集しお持ち帰り、でもゴキアレルギー

東洋経済オンライン / 2024年9月7日 19時0分

しかし、安心していただきたい。何も親を殺して子を奪い取ろうというのではない。彼らは両親と子で構成されたコロニーで生活している、いわば核家族世帯である。私はその仲睦まじい家族を血も涙もなく引き裂いたりはせず、一家まるごと採集する。これで、まだ小さな子も親がいて安心だ。私もゴキブリがたくさん採れてうれしい。Win‒Winである。

しかしうれしいことばかりではない。なんと私はゴキブリアレルギーになってしまったため、クチキゴキブリを素手で触ると無数の水ぶくれができてしまうのである。クチキゴキブリの脚には無数の棘があり、それが皮膚を貫通するのだ。脚の棘は刺さると血が出るくらい鋭い。薄手ゴム手袋もなんのその。

毎年ゴキブリシーズンになると、ゴキブリのハンドリングに一番よく使われる私の右手人さし指先端は鮮血がにじむ。こうして棘表面に付いたゴキブリ由来の怪しい物質(おそらく体表炭化水素など)が体内に入ってしまうと、翌日には立派な水ぶくれが皮膚の奥底からこちらをのぞいているので、こちらものぞき返す。たまに潰す。

ゴキブリアレルギーだったとしてもこんな人生を歩んでいなければ困りはしなかっただろうに、よりによってクチキゴキブリ研究者などという道を選んでしまったため、採集、実験シーズンは指がかゆくて仕方がない。

これは運命のいたずらか……と運命に責任転嫁したいところだが、こんなケッタイな病になったのは、これまで7年間クチキゴキブリをいじくりまわした自身のせいであることは明白で、ぐうの音も出ない。……ぐう。

私が初めてクチキゴキブリを知ったのは大学生の頃だ。昆虫採集に行った初めての南西諸島は2月の石垣島だったと思う。

石垣島にはタイワンクチキゴキブリ(原名亜種)が生息している。沖縄では馴染みのホームセンター「メイクマン」で今でも愛用している手鍬(てぐわ)を購入し、その新品の手鍬を朽木に向かってぽすっと一振り。そうしたら、ぽろぽろとクチキゴキブリが出てきたのだ。

私も希少種?

このとき、コロニーにいる両親の翅(はね)がなくなっているのを初めて目の当たりにしたのである。どうして翅がないのだろう、と調べるうちに、クチキゴキブリの記載論文(新種発見を報告する、その種の特徴を記した論文)に「成虫の翅は欠損していることが多い」と書かれているのを読み、その断面の形状から「翅が齧(かじ)られているのでは?」と思うようになり、のちにこれはオスメスで食べ合うらしいと知った。

この「クチキゴキブリの雌雄が互いに行う翅の食い合い」こそ、私が2021年に初めて論文で報告し、卒業研究から現在まで続けている私の研究テーマである。ちなみに、クチキゴキブリ研究を現在遂行しているのは全世界で著者ただ一人だ。その意味では、私もやんばるの生物と同じく希少種である。

大崎 遥花:クチキゴキブリ研究者

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