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"斜面の魔術師"作った「集合住宅」の衰えない人気 里山に溶け込む住宅、緑が豊かな部屋の内部

東洋経済オンライン / 2024年9月7日 8時0分

ただ、ここで強調しておきたいのは、共治さんは斜面に住宅を作りたかったわけではないということだ。可能性にあふれた集合住宅を実現できるのが、斜面だったのだ。

日本の戸建ては区分所有者がいる。庭や眺望を求めても、限られた環境で実現するのは難しい。そんな住宅環境を工夫次第で変えられるのが、斜面住宅だと共治さんは考えていた。

また、「鳥が見てもきれいな住宅を作りたい」とも語っていたという。斜面はもともと里山であり、里山に埋もれるような集合住宅にしたかったそうだ。住宅を建てて終わりではなく、「景観を戻す」という考えのもと、建物と周辺環境を含めて設計を進めていった。

たしかに、共治さんの斜面開発には「景観を戻す」という考え方が一貫してある。里山に溶け込むような住宅をつくるために、長い目で見た植栽計画が導入されている。

敷地内に植えられた木は、周辺の雑木林の植生に合わせている。木の成長を見通して、竣工時に樹間を空けて植え、時を経たいま、住宅を包み込むように木々が茂っている。共治さんが願ったとおり建物は自然の中に溶け込んでいる。

「父は、造園家でランドスケープデザイナーの田瀬理夫さんに周辺環境の設計を依頼し、協働していました。田瀬さんには10年後、20年後を完成とした環境を作っていただきました」

住人たちは「誇り」だと感じている

筆者はヒルサイド久末とゆりが丘ヴィレッジの存在感を肌で感じようと、遠くからも眺めてみた。ぐるりと見渡すと周辺の斜面にたくさんの家が見えるが、共治さんが手がけた集合住宅は木々に囲まれ、まさに里山のようだ。そこだけ不思議な存在感を放っていた。

斜面住宅は今も人気が高く、空室が出てもすぐに埋まると敦史さんはいう。長く暮らす住人は、建物にいま、どんな思いを持っているのだろうか。

「誇りだとおっしゃる方もいます。住んでいる人が愛してくれて、ずっと守っていく。そんな住まい方ができる家だと思います。周辺の環境は住人が緑化の会を作り、世話や管理をしています。父がイメージした理想的な住まい方をしてくださっていると感じます」

2011年度には、地域社会に長きにわたって貢献した建物に贈られる日本建築家協会「JIA25年賞」を「ゆりが丘ヴィレッジ」が受賞。2013年度には「ヒルサイド久末」も受賞した。

植栽や管理まで長期スパンで計画し、今も大切にされている斜面の集合住宅。建物が環境や街並みを作り、里山に溶け込んでいく。

「新築が素晴らしいという考えもありますが、住まいに味が出てくるのは時間が経ってから。その考え方はこれからも守っていきたいと思います」

【そのほかの写真を見る】上空から見た圧巻の光景。自然豊かな斜面住宅の気になる内部や、間取りも

鈴木 ゆう子:ライター

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