日本の「金融所得課税」議論で圧倒的に欠けた視点 総裁選の争点だが、政争の具になっていないか
東洋経済オンライン / 2024年9月9日 9時0分
一方で、3000万未満の世帯は4215万世帯で(全体の78%)、その資産は656兆円(42.2%)である。日本では、富裕層と呼ばれる層がそこまで資産が集まっているわけではない。中間層がいまだに多い国である。であれば、低所得者層から中間層に対して、金融教育を整えることで、国民全体の金融所得自体の底上げも可能ではないか。
では、日本のどこで格差が拡大しているのかというと、所得格差の度合いを測るために国際的に使われているジニ係数では、格差が広がっているのは高齢者世帯で、現役世帯の所得格差は比較的小さいことが確認できる。むしろ、日本の課題は高齢世代の低所得層にあると言える。
近年の傾向は、もともと存在していた一部の富裕層の資産が増えたのではなく、新たな富裕層が加わったことで富裕層の総資産が拡大している。株などの投資が普及したことで、これまで富裕層でなかった層が資産を形成しつつあるのだ。富める者だけがさらに富んだ、というわけではないのが日本の現状だ。
つまり、日本はアメリカなどとは富の集中構造が大きく異なり、海外における議論をそのまま当てはめることはできない。海外に比べると少ない富裕層の資産から出た運用益に5%や10%を割増課税したとしても、再分配に寄与する金額は限られたものになる。
日本で足りていないのは丁寧な議論と説明
金融所得課税の実現について語る際には、金融所得課税の対象を明確にし、課税によってどれくらい税収が見込めるのか、国民がきちんと理解できる形で丁寧に説明すべきだろう。むしろ、富裕層が国内で消費や投資をしやすい環境を作るほうが、経済を回し、消費税や法人税などの財源を増やす流れにつながる可能性もある。
もともと、金融所得課税の見直しは、2021年総裁選で岸田文雄首相が打ち出したが、その後、株価の大幅下落によって見送られた。しかし、岸田首相が退陣を決めた今でも、金融所得課税のネガティブな印象は深く一部の国民や個人投資家の心に突き刺さっている。岸田首相は「所得減税」という「減税」を断行したにもかかわらずだ。
未来に向けてどんなに前向きな議論や政策を論じようとしても、一度ついた印象を拭うのは容易ではない。デフレから脱却し、日本経済を前に進ませる時期に最も重要な視点は何か。それは、政治と国民との信頼関係を構築することであり、政治家には国民と同じ目線でコミュニケーションを図ることが求められる。
馬渕 磨理子: 経済アナリスト、認定テクニカルアナリスト
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
日本の政治に「経済政策」などというものはない 経済政策の終焉か、政治そのものの終焉か?
東洋経済オンライン / 2024年9月7日 9時30分
-
資産売却益への課税強化を主張 ハリス氏、富裕層に配慮も
共同通信 / 2024年9月5日 17時5分
-
日経平均が今年3番目の下げ幅…9.4株価暴落は「石破茂NO」のメッセージか?
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年9月5日 10時58分
-
〝袋だたき〟石破茂氏の金融所得課税「実行したい」発言 進次郎氏に続きコバホークも「中間層への増税、賛同しません」
zakzak by夕刊フジ / 2024年9月4日 11時45分
-
総裁選争点に金融所得課税が浮上 石破氏「強化」訴えで
共同通信 / 2024年9月3日 19時13分
ランキング
-
1なぜ「兵庫県知事のイス」にしがみつくのか…「おねだり」「パワハラ」と言われても斎藤元彦知事が辞職を拒むワケ
プレジデントオンライン / 2024年9月9日 7時15分
-
2「夫に投げ飛ばされた」子どももいた日中の自宅で、子育てめぐり口論し…けがの妻が自ら通報、その場で逮捕の34歳の夫「つかまれた腕をはねのけた」 北海道旭川市
北海道放送 / 2024年9月9日 7時54分
-
3登山中に滑落か 男性が死亡 江田島市の陀峯山
広島テレビ ニュース / 2024年9月8日 19時0分
-
4刑務官の男 和歌山の県道で酒気帯び運転の疑いで逮捕
ABCニュース / 2024年9月9日 5時21分
-
5維新の会も兵庫県知事に辞職要求の方針…「百条委の説明が納得するものと言い難い」
読売新聞 / 2024年9月8日 22時35分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください