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「アレルギー」名付けた学者の理論が黙殺された訳 専門家の間でも意見が分かれる定義とその歴史

東洋経済オンライン / 2024年9月11日 12時0分

ピルケの理論では、ワクチン接種による免疫獲得というポジティブな変化も、同じワクチンに含まれていた別の物質に対して生じるかぶれや発熱といったネガティブな変化も、異物によって患者の体に誘導される生物学的変容であり、同じ「アレルギー」の語でまとめられていた。

免疫系は病気から体を守るだけでなく、負の反応によって病気を起こすこともある——。そう主張するピルケのアレルギー理論は、免疫研究者の多くからは黙殺された。免疫学という新分野の基礎を作り上げた人々の間では、免疫系は体をひたすら病気から守るものだと考えられていたためである。

だが実際は、ピルケやシックら一部の臨床医たちが観察していたように、免疫系は間違いを犯すこともあった。病気から身を守る効果があるはずの血清やワクチン、あるいは辺りを飛び回る無害な花粉といったものに対して、かぶれ、皮膚の炎症、発熱などの反応を引き起こす患者たちがいたのだ。

時に体を病気にさせてしまうこともある免疫系

一度は黙殺されたピルケのアレルギー理論。しかし、臨床面と実験面での知見が蓄積されていくにつれ、他の医師や科学者らもまた、アレルギーの概念によって説明がつきやすくなる疾患が多いことに気づきはじめた。繰り返される喘息や蕁麻疹、季節性の枯草熱(今でいう花粉症)……。

1906年の提唱当時には反発を受けたアレルギーという現象は、1920年代後半には免疫学の一分野として専門的な研究が行われるようになっていた。

こうしてアレルギーの研究が進むにつれ、研究者らの関心はもっぱら免疫系の過剰反応と負の側面に向けられるようになる。

すると、今度は「アレルギー」の考案者であるピルケ自身がその方向性に反発することとなった。彼の考えでは、異物に対する抵抗力の獲得という正の反応も等しく「アレルギー」であったためだ。ピルケは幾度となく訂正を試みたが、ついには自らこの用語を使うことをやめてしまった。

免疫系による生物学的変化を包括的にとらえようとしたピルケの「アレルギー」の定義は、1940年代までにすっかり打ち捨てられる。

そして、免疫系が自分自身の体の細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)の発見や、異質な物質を攻撃せずに受け入れる免疫寛容の研究などを通じ、免疫系の複雑かつ多様なしくみを理解しようとする取り組みは、「アレルギー」という用語の枠を越えて進んでいくこととなる。

「肉アレルギー」や「抗生物質アレルギー」も

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