原始の地球上に「土」が存在しなかったという驚き 土はどこから運ばれ、どうやって作られたのか
東洋経済オンライン / 2024年9月19日 16時0分
気候変動、パンデミック、格差、戦争……、私たち人類を襲う未曽有の危機を前に、20万年にわたる人類史が岐路に立たされている――。そのように言っても、大袈裟に感じる読者は少ないのではないでしょうか。
そんな今、40億年の生命誌からヒトの生き方を問い直そうとしているのが、レジェンド研究者・中村桂子さんです。
科学の知見をもとに古今東西の思想や実践活動に学び、「本来の道」を探った著書『人類はどこで間違えたのか――土とヒトの生命誌』より一部抜粋・編集して、生き方を見つめ直すヒントをお届けします。
「土」を知るところから始めよう
農耕は定住を不可欠なものとし、そこには自ずと住居が集まり、お互いに助け合う小型の集落ができました。
つまり農耕文明の始まりは食べものづくり(現在の農業)、暮らしの場づくり(現在の言葉にするなら村づくり、街づくりであり、土木・建設)の始まりであり、「自然に手を加える」ことの始まりです。
「生きものとしての農業」としては、農耕を、土に注目して考えていくのですが、実は暮らしの場づくりはすべて土から始まります。
農耕の場合と同じく、現代社会の中での土木・建設という作業が自然破壊につながっていることに疑問を抱いた人々が、もう一度土を見ようという活動を始めていることを最近知りました。「生きものとしての農業」と同じように「生きものとしての土木」と呼べる活動です。生活の基本に土があることを示す動きです。
有機農業への関心が高まるなかで、世界の流れとして、土への関心が近年大きく浮かび上がっているのは、本質に迫っている気がします。
土はこれまで目立たない存在でした。土そのものの理解が必要と気づき、その複雑さがわかってきたのは最近のことなのです。そして今、土壌革命という言葉が生まれるほどに、土の重要性が注目されています。
その理由には、土にあまり目を向けず、農作物の生産性を上げることだけに注目して農耕を行ってきたために、土の質が落ちてきた危険性に気づいたことと、複雑な土の実態の研究が進んだこととの両面があります。
私たちは今、農耕を考えるなら土から始めなければならないという知見を得たのです。生きものも土も複雑な自然であり、科学もやっとこれに注目するところまできたというのが実情です。
そこで、狩猟採集から農耕への移行を「土を知るところから始めよう」というのが、生命誌の提案です。1万年前の人がそこに気づかずに農耕を始めたのは仕方のないことですが、今なら「土」から始められるはずです。
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