1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「死が目前に迫った人」の話に、どう耳を傾けるか 相手の気持ちを100%理解できなくてもいい

東洋経済オンライン / 2024年9月22日 17時0分

もし、今、みなさんが何かに苦しんでいるなら、似たような思いを抱えている人たちが集うワークショップなどに足を運び、自分の苦しみを話してみると、よいかもしれません。

相手の気持ちを「100%理解」することはできない

苦しみを抱えた人を気遣うことは、とても大切です。しかし、どんなに親しい間柄であっても、どんなに心をこめて接しても、人は相手の気持ちを100%理解することはできません。

私自身、他のスタッフと意見が食い違い、悩んだこともあります。同じ職場で、同じように患者さんのことを思って働いていても、互いの考えを完全に理解することはできないのです。

それでは、他人の苦しみに対し、私たちはどうすればいいのでしょうか。私は次のように考えています。

「人と人は完全に理解し合えなくても、相手を『理解者だ』と思ったり、相手に『理解者だ』と思ってもらったりすることはできる」

まるで何かの問答のようですが、私はいつも、「もしかしたら、『理解者だ』と思ってもらえるかもしれない」という希望を抱きつつ、患者さんと接しています。

かつて看取りに関わった患者さんの中に、長年真面目に働き、定年退職後に奥さんと世界旅行をすることを楽しみにしている方がいました。しかしあるとき、体調不良から検査を受けたところ、がんが発見されたのです。がんは肝臓と脳に転移しており、治療は難しく、余命1年と宣告されました。

「一生懸命働いてきて、老後は奥さんを労わってあげたかったのに」

「なんのために、働いてきたのか」

「自分の人生はなんだったのか」

最初のうち、その患者さんは、絶望し、苦しみ、これまでの人生の意味すら見失ってしまいました。こうした患者さんに対し、私たちにできることは何か。丁寧に話を聴くことしかありません。

たとえ苦しみは解決されなくても、辛いときに「辛い」という言葉を、苦しい時には「苦しい」という言葉をちゃんと聴いてくれる相手がいるだけで、つまり「この人は、自分の気持ちをわかってくれている」と思える人がいるだけで、人は少しだけ、楽な気持ちになることができます。

人生の最終段階の医療に携わる私たちは、日々、苦しみを抱えた患者さんたちと向き合っています。たとえ気持ちを100%理解できなくても、もしかしたら患者さんが、私を「理解者だ」と思い、穏やかな気持ちを取り戻してくれるかもしれない。

私はいつも、そのような希望を抱きながら、患者さんの話を丁寧に聴き、共に苦しみを味わおうとしています。

話を「丁寧に聴く」のはとても難しい

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください