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「死が目前に迫った人」の話に、どう耳を傾けるか 相手の気持ちを100%理解できなくてもいい

東洋経済オンライン / 2024年9月22日 17時0分

ただ、「相手の話を丁寧に聴く」というのは、簡単なようで、とても難しいことでもあります。

最初は話を聞いていたのに、気がつくと、自分の体験談やアドバイスを話してしまっている。相手が話していないことまで勝手に自分の頭の中で想像して補い、わかったような気になってしまう。そんな人は、案外多いのではないでしょうか。

特に、相手のことを少しでも理解したと思ったとたん、人は相手の話を聞かなくなりがちです。家族や親友など、気心の知れた人に対して、相手がまだ話している途中なのに「聞かなくてもわかるよ」とさえぎってしまったことはありませんか?

医療の現場でも、紹介状によって病状などを把握した医者が、病気の辛さを訴える患者さんの話をあまり聞かずに診察を進める、ということがしばしばあります。話を聴き、その苦しみを共に味わうことで、患者さんの苦しみが和らぐこともあるのに、残念ながら、そこに気がつかない医療者が多いのが現状です。

話を聴くときには「相手は、自分とは違う人間である」と認識し、先入観や思い込みを捨てる必要があります。

ちなみに私は、患者さんの話を聴く際には、相手の話すテンポを大切にします。適度にあいづちを打ち、ときおり相手の表情をうかがうことも心がけています。いずれも、患者さんに安心して話していただくためです。

さらに、患者さんには忙しそうな様子を見せず、できるだけのんびりゆったりと構えます。苦しんでいる人は、誰にでも苦しみを打ち明けるわけではありません。自分の苦しみをわかってくれそうな人、言葉を変えると「暇そうな人」を選びます。

ですから、苦しみを抱えている人がいたら、できるだけ「この人、暇そうだな。こちらから声をかけてみようかな」と思ってもらえるような雰囲気を作ります。

何より大切なのは「苦しみ」を共に味わうこと

なお、話を丁寧に聴き、相手の伝えたいメッセージをキャッチできたら、言葉にして、相手に返しましょう。もし、その内容があっていたら、相手は「そうなんです!」と頷いてくれるはずです。

たとえば、誰かが「この前、仕事でミスをしてしまった」と話していたら、私なら「この前、仕事でミスをしてしまったのですね」とまずは反復します。肯定も否定もせず、「馬鹿だなあ」などと言ったり、「どんなミス?」と尋ねたり、「他で挽回すればいいよ」と励ましたりもしません。ただただ、相手の言葉を丁寧に反復します。

すると、必ず相手のほうから「電話1本かけて確認しておけばよかった」と、具体的な話をしてくるはずです。このときも、「そうか、確認しなかったのがいけなかったと思ってるんだね」と、相手の気持ちを認めるようにします。

やがて、相手の口から「そうそう!」「そうなんです!」といった言葉が飛び出し、口数が一気に増えます。それが、相手がこちらを「自分の理解者である」と認めたサインです。

苦しみを抱えた人を前にすると、つい良いことを言ったりアドバイスしたりしたくなるかもしれません。しかし、苦しんでいる人は、ただ「相手が、自分の苦しみをわかってくれている」と思えるだけで、気持ちが落ち着くのです。

相手の話を丁寧に聴き、反復すること。相手の苦しみを、共に味わうこと。それが何よりも大切だと、私は思います。

小澤 竹俊:医師

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