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「シカを家族で解体」横浜の住宅街で野性的生活 都会の住宅街でも自分の力で暮らす家族の日常

東洋経済オンライン / 2024年9月28日 16時0分

人それぞれの考え方、というおじさんの言葉が心に残り、私はついに購入を決意した。

自力で床を張り、薪ストーブを設置する

築50年近く経っている家屋は構造が弱かったので、工務店に耐震工事をお願いした。そのついでに階段とトイレの場所を移動して、柱が腐っていた浴室をこわして新設する、という少し大がかりなリフォームを行った。畳や襖(ふすま)を取り払い、文祥が明治時代の養蚕家で使われていた松の古材を仕入れて、床に張った。

古い砂壁に水を吹きかけ、やわらかくしてヘラで搔き落とす。遊びに来ていた祥太郎の友達もワケがわからないまま作業に動員された。漆喰に山の土や珪砂、色粉などを配合して壁に鏝(こて)で塗っていく作業は、私をとりこにした。

錆びた柵にペンキを塗ったり、襖や障子を張り替えるのも初めての経験だ。職人さんのような完璧な仕事はできなくても、丁寧に仕事をすれば生活の質が上がる。何より自分がやれば不満が残らない。お金を払って誰かに任せて、経験を捨ててしまうのはもったいない(それがわかっていても、ついお金で解決しようとする自分がいる)。

引っ越し後すぐに、友達の力を借りて薪ストーブを据え付けた。文祥は家の立地を見て、薪ストーブを設置しても近所迷惑にならないと考えたという。床(とこ)の間だった空間に、薪が積み上げられた。

気密性が低い家なので、ストーブをつけてもすきま風はひどい。それでも心地よい暖かさに家族が集まり、暖をとりながら焼き芋を作ったり、何かを煮たり、ピザを焼いたりと、冬の食に楽しみが増えた。東日本大震災で停電したときも、薪ストーブはいつもと同じようにチンチンと燃えていた。オーロラのようにゆらゆらと揺れる炎や赤く輝く熾(お)き火を見ていると、炎が人の一生そのもののようにも思え、ついぼんやりと眺めてしまう。

季節ごとに斜面の木にやってくるオナガやメジロなどの野鳥や、広い空にかかる月も、この家の思いがけない特典だった。

「今頃いいねって言ってもダメなんだからね。あなたは、はじめ反対したんだから」と文祥は、いつまでも意地が悪いことを言う。

シカを解体し、食べる

ゲタの家にウッドデッキが完成し、動物を解体するスペースができた頃には、山仲間の車で殺された鹿がそのまま運び込まれるようになった。

野生肉を保存するため、外置き用の冷凍庫を買ったが、鹿が数頭獲れるとすべてを保管することはできない。近所の友人らに解体から肉の持ち帰りまで、助けを求める。〈鹿が獲れました、欲しい人集まってください〉と一斉メールをすると、鹿肉ファン、 医学部を目指すので勉強のために解体したいという人、毛皮が欲しい人……色々な人が集まってくる。

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