父が狩る「大ネズミ」の唐揚げを食べる家族の日常 狩猟シーズンはほとんどスーパーで肉を買わない
東洋経済オンライン / 2024年9月29日 16時30分
先生の言葉は、しのぶ君にとってどんなに嬉しかっただろう。しのぶ君は家に帰ると「お父さんの仕事はすごかとやね」と言った。坂本さんは動物を殺す仕事が辛くてやめたいと思っていたが、息子から思いがけない言葉をもらい、もう少し続けてみようかなと思う。
しのぶ君の担任の先生の言葉に、私は心を打たれた。狩猟をすることも、解体をすることも大変な仕事だ。文祥がそれらを自らに課している姿を見ているうちに、動物の命をもらって生きていること、私の代わりに、今日も誰かが、動物を殺す仕事をしていることを想像するようになった。
とはいえ、殺すことには後ろめたさがつきまとう。鹿の解体後、ウッドデッキに鹿の生首が転がり、ベランダの柵に鹿の生皮がべろんとかけられているのを見ると、げんなりする。散歩で通りかかった犬が鹿の血の匂いに反応し、キャンキャン吠えている。「ほら、な〜に、やめなさい」。飼い主さんがうちのウッドデキをのぞいて、ギョッとしたのが気配でわかる。
夫が会社に行ってしまうと、私はそれらをこっそり人から見えない場所に隠す。
ヌートリアをお弁当に
苦労して大型動物を仕留めて持って帰ってくる人と、それを受け取って食べるだけの人の間には、意識の差がある。
生協の宅配が届いた日、私が留守にしていたので文祥が発泡スチロールの箱を開けて食品を冷蔵庫に移した。すると、豚肉や鶏肉のパックが出てきた。
「肉、たくさん買ってるね」。帰宅後、イヤな予感が当たり、やはりイヤミを言われた。「たくさん鹿肉があるのに、どうして肉を買うの」
「いやー、だってさあ、お弁当もあるし」とごまかすが、どうも気まずい。
「鹿だけだと、やっぱり飽きちゃうのよ」
「じゃあ、鹿、イノシシ、ヌートリアって回せばいいだろう」
「ヒーッ」
そうこうしているうちに、文祥が岡山県の川でヌートリアを8匹も狩ってきた。今、ヌートリア猟がマイブームらしい。かんべんしてください、と私は思った。これまでにもヌートリアの肉を何度か食べたが、“ネズミ味”はあまりおいしくない。有蹄目の鹿は食料としてわりとすんなり受け入れたが、ヌートリアとなるとグッと人間に近い種という気がする。どこかの国ではごちそうだというから、これも習慣の問題なのだろう。
冷たく横たわっているヌーさんたちに申し訳なく、さすがに肉を買っている場合でも、文祥に文句を言っている場合でもなくなった。思いきってヌートリア唐揚げをたくさん作って、お弁当のおかずにも入れてみた。
帰ってきた子供に感想を聞くと、「いつもと同じ。普通においしかったよ」と言う。よし、と思った。
娘は中学校で、長男は都会の予備校で、父親が獲った大ネズミの唐揚げを食べていると思うと、なかなかいいな、とにんまりした。
【おまけ はっとり家の野性肉料理ベスト3】
1位 鹿ロースト 余熱でじっくり火を通すと固くならない。
2位 鹿ギョウザ ニンニク・ネギ・パクチーをたっぷり入れて!
3位 イノシシ汁 イノシシは圧力鍋でやわらかく煮てから加える。
服部 小雪:イラストレーター
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