1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

ル・コルビュジエ設計「美しい街」住民たちの苦難 エリートも住まう「緑豊かな都市」の見えざる敵

東洋経済オンライン / 2024年9月29日 11時0分

実は、シンが最も多く診るアレルギーの1つは真菌〔カビやキノコ〕に対するアレルギーだ。彼女の担当患者のうち、コントロール不良〔症状の悪化や発作の頻発など、抑制がうまく効いていない状態〕の喘息を抱える患者のおよそ20%が、やがてアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)という重篤な肺疾患を発症する。

ABPAは珍しい疾患であるものの、コントロール不良の喘息患者はよりこの疾患にかかりやすく、アスペルギルス属(世界全体でこれまでに837種が発見されている)の真菌のうち複数種に感作されるようになる。

「ABPAはとても嫌な疾患です」とシンは言う。「喘息をうんと悪化させてしまうからです。肺を破壊してしまいます。単なる喘息ではそんなことにはなりません」。

そうなるのは真菌が過剰増殖してしまうせいだ。シンは増加した工事、不適切な農業慣習、そして徐々に変動する気候を、チャンディガール内外でのカビ胞子増加の背景として指摘する。

真菌は比較的湿った、暖かい環境下で繁殖する。そして、チャンディガール市内で新たに行われている多くの工事の現場が、かつて農地だった、地下水位の高い場所にある。

「こうして作られる比較的新しい家々は皆、湿気の問題を抱えています」とシンは言う。チャンディガールのあるインド北部では、心配すべきチリダニはあまり多くない──彼女の患者たちにとってはありがたいことだ。

だが、もっと温暖なインド南部では、患者たちが真菌、そして増加したチリダニの両方にさらされているのだという─―喘息とABPAを招く破滅的な組み合わせだ。そして不運なことに、ABPAには良い治療法がない。

美しい街の見えざる敵「微粒子、花粉、カビの胞子」

気候変動、そして、それによって世界各地で生み出されているより湿潤温暖な天候により、真菌への感作は大きな問題となりつつある。特に南アジア諸国ではそうだ。

こうした気温の急変動は、植物と真菌が繁殖する時期と様式に変化を与えうるものであり、実際に与えている──それが、世界中で増加する呼吸器アレルギーと喘息の患者に大混乱をもたらしている。

そして、シンは将来より良く、より効果的で、より安価な治療法がもたらされるかもしれないという希望を持ってはいるものの、私たちが今まさに歩んでいる道については何の幻想も抱いていない。

彼女の街は美しいかもしれないが、微粒子、花粉、そして増加しつつある真菌の胞子が充満してもいる。その空気の質は、目下のパンデミックにもかかわらず、これからの10年間で改善しそうにはない。彼女は自身のクリニックがこれから持ちこたえられることを願うばかりだ。

(翻訳:坪子理美)

テリーサ・マクフェイル:医療人類学者

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください