石破茂氏に捨て駒としての価値を見た自民の冷徹 沈没の危機に瀕した党が繰り出す奥の手が炸裂
東洋経済オンライン / 2024年9月30日 14時0分
石破氏は小沢一郎元民主党代表らと並んで、今や数少ない田中直系の現役政治家で、角栄流を肌身で知る政治リーダーである。「民意との結託」や「地域活性化による日本再生」などの石破氏の姿勢と路線は角栄流の影響が色濃いと映る。
一方、石破氏は「安保・軍事オタク」と呼ばれるように、自他共に認める政界有数の安保問題専門家だ。もう一つの特徴は「理詰めの人」である。インタビューでも「何でも自分で抱え込む。どうしても理屈が先に立つ。理屈で納得しなければやりませんので」と自己分析を披露した。
これまで石破氏には「運」がなかった
「理屈の壁」が災いした感もあって、石破氏は安倍内閣時代の2016年8月以降、計8年、無役となり、「冬の時代」を送った。2012年9月の総裁選の決選投票で安倍氏に逆転負けして政権を逃してからは、「不運の政治家」のイメージが定着した。
2024年8月14日に岸田首相が9月の総裁選への不出馬を表明したとき、真っ先に思い出したのは、2022年7月8日に不慮の死を遂げた安倍氏がその約1カ月前、都内の会合でのスピーチで口にした言葉だ。政治のトップリーダーが具備すべき条件として、笑いながら「運と多少の人柄」と述べた。
首相の座を担うには、「運」「人柄」だけでなく、「実力」が必要だが、安倍氏の言葉どおり、「運」と「人柄」も不可欠の要件だろう。その点でいえば、今回の2人は総裁選前、政界では石破氏は「運がない」、高市氏は「人柄に難あり」という評が多かった。
石破氏は長い「冬の時代」、「人間改造」を心掛け、「理詰め」を超克したのか、それとも「理詰め」を逆手に取ってそれを政治生命維持の武器にしてきたのか、その点は今も不明だが、思いがけず「春」がやってきた。
2023年秋、「派閥とカネ」の問題で、自民党が沈没寸前の漂流政党に落ち込むという大危機に直面する。病根は派閥政治だから、派閥を解散して無派閥に転じていた石破氏は好機を手にした。奇跡的にワンチャンスをものにして政権の座に到達したのである。
「不運」イメージだった石破氏になぜ突然、好運が舞い込んだのか。何よりも総裁選のほかの候補と違って、これが唯一・最終のワンチャンスと見定めて臨んだ石破氏の「本気度」が決め手となったのは疑いない。
ただし、「自民党は今なぜ石破氏を選んだのか」という疑問が消えない。カギは自民党史の裏側に潜んでいる。2025年11月に結党70年を迎える自民党で、総裁選は第1回の鳩山一郎元首相を選出した1956年4月から数えて今回が35回目であった。
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