石破茂氏に捨て駒としての価値を見た自民の冷徹 沈没の危機に瀕した党が繰り出す奥の手が炸裂
東洋経済オンライン / 2024年9月30日 14時0分
そのうち、17回は無投票選出か実質的に無投票の信任投票で、18回が投票で勝敗を決する総裁選方式によって選ばれた。過去18回の実質投票による総裁選で、決選投票が計8回あり、そのうち、逆転勝利は1956年12月の石橋湛山元首相(敗戦は岸氏)、2012年9月の安倍氏(敗戦は石破氏)に次いで、今回が3回目である。
首相を使い捨てて与党であり続ける
過去の総裁交代劇を振り返ると、自民党には、党が沈没寸前の大危機に陥ったとき、「いつもこの手で危機脱出」と見る常套手段の「奥の手」が一つある。それは「表紙の取り替え」と「首相の使い捨て」だ。
危機で立ち往生する総理・総裁は、有無を言わせずにさっさと交代させ、トップをすげ替える。そうやって、国民の批判の嵐をくぐり抜け、新時代を装って新型のリーダーを担ぎ出す。党の体質や構造など、本質部分の変革が不可欠とわかっていても、変革に伴う失敗や党分裂のリスクを巧妙に避け、いわば古本の表紙だけを替えて、新本に見せる。
2024年8~9月の沈没の危機で、自民党は今度も「奥の手」に頼った。新しい表紙は無派閥政治家に、という大合唱に乗って、石破氏、高市氏、小泉進次郎元環境相が浮上した。
万年与党にこだわる自民党には、大危機に遭遇したときにさっと発想を変えて、党内少数派に属する新型のリーダーの中で危機の乗り切りを託せるのはこの人物、と判断する伝統的な「知恵」が存在する。
「捨て駒」を承知のうえで勝負した石破氏
今回は、「冬の時代」も含め、長年の孤軍奮闘、七転八起、艱難辛苦を乗り越えて生き抜いてきた石破氏の生命力と遊泳力を見て一本釣りするという選択にたどり着いた。その自民党の手法が最後に党内で多数の支持を得ることに、石破氏は気づいていたに違いない。
課題は、国民が自民党の「奥の手」や「知恵」を容認するかどうかだ。2023年後半以降の自民党政治を見ている限り、今回の国民の自民離れは、予想をはるかに上回る厳しさである。
民意は、「表紙の取り替え」と「首相の使い捨て」を自民党の常套手段と見透かし、本物の「解党的出直し」でなければ承知しないという判定を下す展開は大いにありえる。答えは次期衆院選で明らかになる。石破氏はこの逆風を乗り越えることができるかどうか。
塩田 潮:ノンフィクション作家、ジャーナリスト
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