国語の勉強つまらない人に欠ける"古文の奥深さ" 解釈が色々あるからこそ、学んでいて面白い
東洋経済オンライン / 2024年10月5日 16時0分
さて、どちらのほうが正しいと思いますか? 実はこの問いの答えは、ありません。どちらの可能性もあるのです。
この当時はまだ、句読点を振るという文化はありませんでした。そのうえで古典文法的な説明をすると、「白くなりゆく」の「ゆく」は四段活用のため、終止形・連体形のどちらの可能性もあります。「ゆく」の後ろに「。」が入るのか入らないのかは、わからないのです。ですから、どちらもありえるわけですね。
「え? 答えがわからないことを習っていたの? それってどうなの?」と思う人もいるかもしれませんが、むしろ、答えがないからこそ、この一節はとても面白いのです。
句読点の位置が1つ変わるだけで、解釈は大きく異なります。
まず、「白くなりゆく。山際〜」の文章では、明け方に、「あたりが白んでくる」ことを表しています。逆に、「白くなりゆく山際、」の文章は、真っ暗な中で「山の稜線が白んでくる」ことを表しています。
これを踏まえて考えると「白くなりゆく。山際〜」の文章で描かれる「春はあけぼの」はこのようになります。
「明け方になって、空の一部がうっすらと白んできている。その後、山の稜線が少し赤みを帯びて明るくなっていく。その光によって、高貴な紫色を発している雲が、山の前に細くたなびいていたことに気づく。」
逆に、「白くなりゆく山際、」の文章で描かれる「春はあけぼの」はこのようになります。
「明け方になって、真っ暗な中、山の稜線が少し白んできている。その稜線が、少しずつ赤みを帯びて明るくなっていく。」
先ほども述べたように、当時は、句読点がありませんでした。なので、この解釈は読む人によって任されていました。同じ人が読んでも、何度も読み返すうちに、「春」の見え方が変わってきています。
どちらの景色が美しいと感じるか
みなさんは、どちらの景色を美しいと感じますか? 正しい答えがないのですから、みなさんが「美しい」と感じるほうを答えにしていいわけですね。ここにある唯一の正しさは、「春」とは「朝の時の移ろい」だと、清少納言が感じている、ということだと思います。
ですから当時の貴族たちも、この「枕草子」を読んで、それぞれの美しさを語り合ったことでしょう。
清少納言の中では「答え」があるのかもしれませんが、それだけを読者に押し付けているわけでは決してないのだと思います。おそらく、自身の読み方以外の「美しさ」も認めているのが、この冒頭部分なのではないでしょうか。
さて、冒頭の話に戻りましょう。「古文の勉強なんて必要ない」と思う人もいるかもしれませんが、たくさんの解釈を楽しめると思うと、古文の勉強が楽しく感じられるようになります。
古文以外の本を読むときにも通じる
答えがないからこそ、いくらでも文章を楽しむことができる。何度も読み返す中で、解釈が変わり、その感覚が楽しい。それぞれの「美しさ」「正しさ」「答え」があってもよくて、無限に解釈が分かれるからこそ面白い。
これは今を生きる私たちにも通じる考え方だと思います。古文以外の本や文章を読むときのスタンスも、こうあるべきだと私は思っています。古文の勉強をする中で、こうした「文章を楽しむ能力」が養えるようになっていくのではないかと感じるのです。
辻 孝宗:西大和学園中学校・高等学校教諭
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