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ノーベル賞の候補に?「やせ薬」開発者3人の功績 発表は7日、前哨戦とされる「ラスカー賞」を受賞

東洋経済オンライン / 2024年10月6日 9時0分

すると、3.8年の観察期間(中央値)の段階で、リラグルチド投与により発症リスクは13%低下したという。つまり、GLP-1受容体作動薬は、糖尿病患者において、心血管疾患や脳血管障害も予防するというのだ。

多くの糖尿病治療薬は血糖コントロールができるが、生命予後には大きな影響はないことがわかっている。この点で、GLP-1受容体作動薬は特異な存在だ。

2016年11月には「SUSTAIN-6試験」でも同様の結果が、同じく『ニューイングランド医学誌』報告されているし、2019年7月には心血管疾患をわずらっていない人を対象に、死亡、心血管、脳血管障害のリスクを12%低下させたという「REWIND試験」の結果が、イギリスの『ランセット』誌で報告されている。

GLP-1受容体作動薬の心臓保護効果は、いまや医学的コンセンサスとなっている。

さらに世界が関心を寄せているのは、認知症の予防効果だ。2024年7月、イギリスの研究チームがアルツハイマー病協会国際会議で発表した研究は興味深い。

この研究は、軽症のアルツハイマー病患者204人を対象としているが、主要となる評価項目である脳内ブドウ糖代謝率は改善しなかったものの、リラグルチド投与群はプラセボと比較して、記憶、学習、言語、意思決定をつかさどる脳の部位の萎縮が約50%軽減していたという。これは有望な所見だ。

現在、ノボ・ノルディスク社は、初期アルツハイマー病患者約3700人を対象とした第3相臨床試験を実施中である。

がん予防効果に専門家は期待

GLP-1受容体作動薬への期待は、これだけではない。がん予防にも関心が寄せられている。

8月28日、『アメリカ医師会誌(JAMA)』は165万人のアメリカ人を15年間フォローした研究で、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、食道がんなど10種類のがんの発生リスクが低下していたという研究を紹介した。

同様の研究結果は、ほかのグループからも報告されている。

今年4月、カナダの研究チームは、GLP-1受容体作動薬を投与されている糖尿病患者では、インスリン、スルホニル尿素薬、メトホルミン(いずれも標準的な糖尿病治療薬)と比べて、肝がんのリスクを80%、61%、37%低下させていたと報告している。

GLP-1受容体作動薬とがん予防については、今後の研究が必要だが、ここまで有望な結果の報告が続いている。

GLP-1受容体作動薬は単なる「やせ薬」ではなく、「万病予防薬」かもしれない。実際、アメリカでは「20世紀の抗菌薬の発見にも似たインパクトを与える可能性がある」と考える研究者も少なくない。

今年5月、アメリカのカイザーファミリー財団が発表したアメリカ成人1479人を対象とした調査によれば、12%が何らかのGLP-1受容体活性化薬を使った経験があり、6%は使用中だったという。

GLP-1受容体に関する情報は日本でも有用だが、残念なことに、このあたりの事情は日本にはまったく伝わっていない。今回のラスカー賞については、全国紙5紙はどこも報じなかった。

ということで、本稿が参考になれば幸いである。

上 昌広:医療ガバナンス研究所理事長

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