ゲームとAIの長い歴史に加わる「感情認識AI」 介護やマーケティングへの応用も視野に
東洋経済オンライン / 2024年10月9日 11時30分
筆者も「Dead Shadows Beta」を体験した。ゲームを起動すると、廃墟のような薄暗い室内が画面に広がる。ノートPCの隣にはスマートフォンが置かれ、プレイヤーの感情状態をリアルタイムで表示していた。
ゲームが始まると、スマートフォンの画面上では「NEUTRAL」(中立)の状態が表示され、心拍数は74 BPMを示している。この数値は、ゲームの展開に応じて刻々と変化していく。
突如、不気味な音が鳴り、画面が揺れる。この瞬間、タブレットの表示が「ALARMED」(警戒)に変わり、心拍数が上昇する。ゲームの進行に合わせ、プレイヤーの感情状態が「EXCITED」(興奮)や「JOY」(喜び)、時には「ANNOYED」(イライラ)と変化していくのがわかる。
プレイ後、開発者用の画面を見せてもらった。そこには、プレイ中の感情変化を示す詳細なヒートマップが表示されていた。青や緑、黄色、赤といった色彩で、ゲームの各シーンでどのような感情を抱いていたかが視覚的に表現されている。
大手ゲーム会社と協議中、介護など他分野の応用も
OVOMINDは10月下旬以降に、ゲーム開発者向けに専用バンドがセットになったSDK(ソフトウェア開発キット)の提供を開始する。実用化に向けて大手ゲーム会社との協議も進行中だという。この技術のゲーム分野での活用は、主に2つの側面で進められている。
1つは、ゲーム開発時のテストプレイにおける感情分析だ。開発者はプレイヤーの感情反応を詳細に分析することで、ゲームの各シーンや要素がどのような感情を引き起こしているかを把握できる。例えば、あるボス戦でプレイヤーが過度のストレスを感じていることがわかれば、難易度を調整したり、事前にヒントを追加したりすることができる。また、複数のストーリー展開やレベルデザインを用意し、どちらがより好ましい感情反応を引き出すかを比較することで、より魅力的なゲーム作りが可能になる。
もう1つは、リアルタイムでの感情分析に基づくゲーム展開の変化だ。プレイヤーの感情状態をリアルタイムで検知し、それに応じてゲームの展開や難易度を動的に調整する。具体的には、プレイヤーが退屈していると感じた場合に予想外のイベントを発生させたり、逆に過度の緊張状態が続いている場合にはゲームの難易度を一時的に下げたりすることができる。これにより、プレイヤーの感情状態に合わせて常に最適な挑戦レベルを提供し、より没入感のある、飽きのこないゲーム体験を実現することができる。
将来的には、この技術をApple Watchなどの既存のウェアラブルデバイスに統合することも視野に入れているという。より多くのユーザーが手軽に利用できるようになり、技術の普及が進めば、サブスクリプション形式でサービスを提供する道が開けるという。
また、ゲーム以外の分野への応用可能性も模索している。介護分野では、言葉を話せない高齢者の感情状態を理解するのに役立つ可能性がある。さらに、マーケティング分野でも活用が考えられており、複数の製品に対する消費者の感情反応を測定し、最も好ましい反応を引き出す製品を特定するなどの用途が挙げられている。
ゲームとAIの関係は、プレイヤーの体験を豊かにする方向で着実に進化している。OVOMIND社の感情認識技術は、その最新の一例だ。次世代のゲームでは、画面を超えてゲーム内に没頭するような体験が待っているかもしれない。
石井 徹:モバイル・ITライター
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