エプソン初の大型買収に"沈黙"競合から困惑の声 845億円で米ソフト会社買収、問われるシナジー
東洋経済オンライン / 2024年10月11日 7時10分
インクジェットプリンター首位のセイコーエプソンは9月19日、約845億円を投じアメリカのプリンター向けソフトウェアのメーカー、Fiery(ファイアリー)社を買収すると発表した。
【写真】家庭用プリンターにとどまらず、エプソンが強化しているオフィスや学校向けの複合機
Fiery社は、大容量の画像データを高速で処理するソフトウェアに強みがある企業だ。キヤノン、リコーといった大手プリンターメーカーがFiery社の顧客としてシステムを購入している。処理速度を必要とする特殊な印刷需要向けでは、Fiery社のシステムが一般的に採用されている。
限られた市場ではあるが、プリンター業界の一部の会社から見れば「取引先が競合に買収された」構図となる。
初の大型買収
今回はエプソンにとって、過去最大規模の買収となる。同業のキヤノン、富士フイルム、リコー、ブラザー工業は、医療やデジタル、工作機械などで大規模買収も駆使して事業構造を変化させてきた。彼らとは対照的にエプソンによる買収は、合弁会社の子会社化や業務提携先の買収、工場の取得など小規模なものが中心だった。
エプソンの業績をみると、円安を追い風に近年の売上高は堅調に見える。しかし長い目で見ると頭打ちだ。ペーパーレス化の進展や年賀状文化の衰退で、主力の家庭用プリンター需要は縮小。インクカートリッジよりも純正インクの使用率向上が期待でき、単価も高い「大容量インク」モデルを普及させて採算向上に努めているが、営業利益率は緩やかな低下傾向にある。
やっと繰り出した大規模買収にもかかわらず、買収の狙いについてエプソンからの発信はほとんどない。プレスリリースで「エプソンの戦略的ビジョンとハードウェアのリーダーシップを補完し、世界中のデジタル印刷の成長を加速させる」と説明するのみだ。買収についての会見や説明会も開催されていない。
競合他社からは「既存ビジネスへの影響については心配していないが、エプソンの狙いがわからない」と困惑や驚きの声が挙がっている。
ハードは強いがソフトに弱点
エプソンの売上高の約7割は、印刷関連のプリンティング事業が占めている。その大部分は家庭やオフィス向けのインクジェットプリンターであり、残りが産業用印刷関連だ。プリンティング事業以外では、プロジェクターや産業用ロボット、産業用水晶、時計などを手がける。
エプソンが強みとする家庭用プリンターは、オフィス向けプリンターほどにはペーパーレス化の影響を受けていない。しかし、業界共通課題としてのペーパーレス化にはエプソンも危機感を持っており、市場の大きなオフィス向けで他社からシェアを奪う、市場拡大が見込める産業用印刷を強化するなどの対策を採っている。
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