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芸術の秋、「和×モダン」の奥深さ堪能する名建築 語りたくなる意匠や背景、あの建築祭にも注目

東洋経済オンライン / 2024年10月12日 9時0分

日本の伝統的な建築は、必ずしも堂々としたデザインには向いていない。近世の城郭のような形であれば、博物館に適していそうだが、重々しさやけばけばしさが懸念される。そこで渡辺仁は、インドネシアの民家にヒントを得て東京国立博物館をデザインした。軒の出を少なくし、左右の屋根をずらすことで頭でっかちな印象を避け、立ち上がる壁面とバランスを取っている。

谷口親子が織りなす「和×モダン」の美を堪能

次に、本館の右手に構える「東京国立博物館東洋館」(1968年竣工)に注目したい。一見あっさりしており、本館のようには装飾が施されていない。これは第2次世界大戦後の1950〜60年代に世界を席巻した、「機能的でないものや昔風に見えるものを取り付けるのは旧式で、進歩に反している」という考え方が影響している。

そうした時代に、装飾ではない形で日本らしさを表現しようという思いから、丹下健三をはじめとする世界的建築家が日本から誕生していく。この東洋館を設計した谷口吉郎も、そんな戦後建築家の1人だ。

構造を支える鉄筋コンクリートの柱と梁をバランスよく整え、それを外観に見せることで、日本の木造建築の率直な美しさを彷彿とさせている。館内の壁に貼り詰められた白いタイルは、日の光をやわらかく映し、障子の清らかさを思わせる。いわば、隠れ和風のデザインなのである。

「和」を取り入れることで「モダン」が前進する。上野公園で3つ目に見たいのは、そのことを世界に知らしめた建築家の作品、「東京国立博物館法隆寺宝物館」(1999年竣工)だ。これは、「ニューヨーク近代美術館(MOMA)新館」(2004年竣工)などの設計で著名な谷口吉生によるもの。先の谷口吉郎の息子である。

直線的で工業的な見た目の中に「和」が感じられるのは、内部と外部とを巧みにつなげる空間の操作が、伝統建築における軒下や雪見障子を思わせるからかもしれない。具体的な形で日本らしさを表現するのではなく、空間の気配りや精緻なものづくりによって「和」を醸し、新たな「モダン」を展開しているのである。

11月1日~10日には、京都でも45の建築を一斉公開する「京都モダン建築祭」が開かれる。筆者は2022年の初開催から毎年、こちらの実行委員も務めているので、お勧めの建築を紹介したい。

パスポートの購入で申込不要・自由見学できる建築の中には、祇園祭の山鉾をモチーフに伊東忠太が設計した「大雲院 祇園閣(旧大倉喜八郎別邸)」(1927年竣工)、昭和初めの流行を採り入れた花街のシンボル「先斗町歌舞練場」(1927年竣工)、伝統ある東本願寺の境内を壊さぬよう地下に空間を設けた高松伸の着想が光る「東本願寺視聴覚ホール」(1998年竣工)などがある。どれも普段は非公開、京都らしい「和×モダン」の建築だ。

その最新のものとして、京都に根ざした建築家・魚谷繁礼の「SHIKIAMI CONCON」(2019年竣工)を紹介したい。長屋とコンテナという、まるで異なるものを組み合わせた複合テナント施設だ。

路地が続き、そこにコミュニティーが生み出されてきた京都らしい空間を維持していく試みで、「共創自治区」をコンセプトに掲げている。木造の長屋を覆うように屋根がかけられ、その上に重ねられたコンテナが耐火性を確保しながら、路地を立体的に広げている。

「和×モダン」の中にも、多様性がある。この秋、建築から日本を再発見していただけたら嬉しい。

倉方 俊輔:建築史家、大阪公立大学教授

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