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デジタルメディアは発達障害の原因になるのか 「デジタルがいい悪い」議論より重要なことは?

東洋経済オンライン / 2024年10月15日 19時0分

コロナ禍では、おうち時間が増え、以降デジタルメディアに触れる機会は圧倒的に多くなりました。現在、徐々にメディア別の発達に与える影響に関するメタ分析(多くの研究をまとめて客観的に効果を検証したもの)の結果が出つつあります。

詳細は省きますが、一番大事なのは見るもの以上にそこにやりとりがあるか、です。絵本でもそうです。一緒に見ている他者(大人)とのやりとりが重要になります。当然、能動的に見続けて他者とインタラクションをとる「仕掛け」がないコンテンツはあまりいい結果が得られていません。つまりデジタルがいい悪いではなく、そこに一緒に楽しめる仕掛けがあるかどうかが大事なわけです。

余談になりますが、その昔、私が病院勤務でリハビリを担当していたときに、とあるトレーニングのドリルがはやり、おじいちゃんおばあちゃんがこぞって「先生! これをやったらボケなくてすむんかいの?」と持ってきたことがありました。私は、「やり方かな! できたらひとりでしないでお孫さんと一緒にやろうか? で、いろいろ聞きながらやるんよ。そのやりとりが大事」と返していましたね。

繰り返しますが、デジタルメディアが悪なのではなく、どんなものであってもコミュニケーションが生まれる仕掛けがあるかどうかです。

耳当たりのよいキャッチフレーズが専門用語になる

スマホの悪影響を誇張した「スマホ脳」「スマホ認知症」といったことばは、マスコミや一般的な議論の中で便宜的に使用される非科学的な用語です。最近では、充分に科学的な検証が行われていない、業界の中でコンセンサスを得られていない一部の専門家だけが用いる単純化されたキャッチフレーズが独り歩きすることが多い傾向にあります。

「HSP」や「発達障害もどき」といったものもその1つと私は考えています。「境界知能」など本来の意味とはかけ離れた使い方をされているものもあります。

ちなみに「HSP」は、心理学者エレイン・アーロンによって1990年代に提唱されました。Highly Sensitive Personの略で、「非常に敏感な人々(の状態像)」を指す概念です。

あくまで一部の専門家が状態像を説明したものであって、いわゆるパーソナリティ心理学といった領域を中心とした議論にとどまっています(その領域の中でもコンセンサスが得られているとは言い難い)。発達心理学や障害者心理学といった子どもの発達とそのつまずきに密接に関連する領域で議論されていることではありません。

そもそも、目の前の困った状況に新たな名前を付けたところで実質的な解決には至りません。自己理解促進の一面はあるものの、それを喧伝しても弊害しか残りません。充分に検討されていない耳当たりだけがいいことばが独り歩きすると誤解や偏見を与えかねませんし、本質的な問題のすり替えになってしまうこともあります。

こういったいわば「造語の独り歩き現象」は社会が変革すべき時期によく見られる現象で、その時代に人々が感じる不安や懸念が生み出す亡霊のようなものでもあると思います。あくまで私見ですが、ラベリングを優先する人(「私はASDでHSPで……」)やさまざまなことを特定の原因に帰結させたがる人の発言は特に、鵜呑みにせずしっかりと検証する必要があります。

診断は決して簡単なものではなく慎重さが要求されるものである。心ある医療関係者は通常そう思って仕事をしています。

川﨑 聡大:立命館大学教授

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