クルマ社会だが鉄道王国、群馬県ご当地鉄道事情 新幹線にJR在来線、私鉄がそろう充実の路線網
東洋経済オンライン / 2024年10月16日 7時0分
ローカル私鉄・上信電鉄も吾妻線と同じく長野県入りを目指した過去を持つ。富岡製糸場の開設によって鉄道建設の要請が高まり、1897年に開業した老舗私鉄。当時は上野鉄道と名乗っていたが、県境越えを目論んで1921年に上信電気鉄道(のちに上信電鉄)に改称している。こちらも夢は叶わず、1897年以来終点はネギでおなじみ下仁田である。
東西に横断する路線
群馬県の鉄道の役割が、首都圏・信越連絡の要だとすると、ならば東、つまり北関東仲間の栃木県との連絡はどうなっているのだろうか。群馬と栃木の県境付近は、「両毛地域」などと呼ばれている。古くは繊維産業で栄え、県境を越えて結び付きの強い地域だ。ここを東西に貫いて走っているのが、両毛線である。
上越線の新前橋駅で東に分かれ、県都・前橋を経て伊勢崎や桐生、足利といった両毛地域を代表する都市を連絡、小山駅でJR宇都宮線・東北新幹線と接続する。沿線で生産されていた生糸製品の輸送を目的に、1889年までに全通した。
桐生駅が両毛線では群馬県内東端の駅で、桐生駅からはかつて足尾銅山の産業路線だった旧国鉄(JR)足尾線、現在のわたらせ渓谷鉄道が山の中に分け入ってゆく。
両毛線が伊勢崎を経由するためにグイッと南に迂回しているのに対し、ほぼ直線的に前橋と桐生の間を結んでいるのがローカル私鉄の上毛電気鉄道だ。赤城山の南麓を結び、晴れの日ならば車窓からも赤城山がよく見える。
早くから自転車を車内に持ち込めるサイクルトレインを実施したり、上信電鉄とともに“群馬型”とも呼ばれる見なし上下分離方式に移行したり、先進的な試行錯誤を続けている点も見逃せない。
そして、忘れてはいけないのが東武鉄道だ。
私鉄も充実の路線網
群馬県は広い。その南東部には、館林や太田といった工業都市がある。東武鉄道は、首都圏からやってきて群馬県内でもこうした諸都市を結んでいる。館林―太田間は伊勢崎線に加えて利根川沿いの大泉町などを経由する小泉線も走り、太田駅では伊勢崎線から桐生線が分かれる。
桐生線は浅草発の特急「りょうもう」が1時間に1本ペース。本線格である伊勢崎線の伊勢崎駅には通勤特急的な位置づけで1日1往復しか走っていないことを思えば、桐生線が事実上の“本線”といっていい。
この東武のネットワークを加えれば、北部の山間をのぞけばほとんどの地域に鉄道が通るという、群馬県。高崎駅を中心とする首都圏・信越連絡と隣県の栃木県との間、すなわち両毛地域を走る路線と、これがうまくかみ合ったネットワークがクルマ社会の道路網と補い合うように形作られている。
鼠入 昌史:ライター
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