キオクシア「上場塩漬け」で深まる2つのリスク NAND価格は再び下落基調、深まるファンドの苦悩
東洋経済オンライン / 2024年10月17日 8時0分
ファンド傘下に入り6年――。NAND型フラッシュメモリー(NAND)世界大手の半導体メーカーであるキオクシアの出口戦略が難航している。10月にも上場する見通しだったが、延期が報道されるなど時期が定まらない。具体的な進捗は不透明なままだ。
2022年後半から長く続いたメモリーの大不況期は過ぎ去り、すでに市況は好転。キオクシアの操業もフル稼働に戻っている。同社が発表した2024年4〜6月期の業績は売上高4285億円、営業利益は1259億円と、30%に迫る営業利益率を記録。四半期ベースではキオクシア設立以来、最高の決算だった。
環境に恵まれ、業績は絶好調。「この機を逃して次の市況のダウンサイクルに入れば、二度と上場できるタイミングはないかもしれない」とすらみる業界関係者も多い。
実際に好況はつかの間で、足元のNAND価格はすでにピークアウトしたという予測もあり、逆風は再び強まり始めている(台湾の調査会社トレンドフォース)。スムーズな上場を阻むものは何なのか。
時価総額1兆円が目安
キオクシアは2017年、不正会計問題などで経営危機に陥った東芝から、虎の子だったメモリー事業を分社化して発足。アメリカの投資ファンドのベインキャピタルを中心に韓国のメモリーメーカー・SKハイニックスも出資する特別目的会社(SPC)が株式の56%を保有する。
つまり、現在のキオクシアは親会社である投資ファンドの「持ち物」である。上場(株式市場での転売)するかしないか、またその時期を決めるのは、あくまで投資ファンドだ。
2018年6月に完了した投資ファンドによるキオクシアの買収金額は2兆円。うち1兆円はファンドの自己資金、残りの1兆円は負債(優先株含む)だった。買収にかかった自己資金が1兆円だったということは、ファンドとしてリターンを得るためには当然、それ以上で転売する必要がある。上場であれば、大まかに言えば「時価総額1兆円」の達成が最低限クリアすべきラインだ。
では問題になるのは、キオクシアの実際の株主価値はこの6年間でどれだけ増えたのか、ということだ。
実際の算定には、将来獲得する見込みのキャッシュフローを現在の価値に換算したDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法が使われる。だがこれには複数の仮定が必要となり、計算も複雑だ。
そこで、キオクシアが上場した際の時価総額の大まかな目安になりそうなのは、ライバルメーカーのPBR(株価純資産倍率)やPER(株価収益率)といった株価指標を当てはめることだ。ただ「時価総額が純利益の何倍で評価されているか」の指標であるPERをそのまま当てはめるのは難しい。メモリー業界は市況の波が激しく、純利益のブレ幅が大きすぎるからだ。
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