キオクシア「上場塩漬け」で深まる2つのリスク NAND価格は再び下落基調、深まるファンドの苦悩
東洋経済オンライン / 2024年10月17日 8時0分
そこで一つの目安になりそうなのは、時価総額が純資産の何倍で評価されているのかの指標であるPBRだ。
5年度累計の損益は赤字
メモリー業界は、キオクシアに加えて韓国のサムスン電子とSKハイニックス、アメリカのマイクロン・テクノロジーとウエスタンデジタルの5社寡占市場だ。キオクシア以外の4社は上場しており、足元のPBRは2〜2.5倍。これは、それぞれの企業の時価総額が、純資産の2〜2.5倍の範囲に収まっているということだ。
2024年3月末時点で、キオクシアの純資産は4783億円だった。仮にキオクシアへの株式市場からの評価がライバルと同様の範囲に収まるとすれば、純資産にPBRを掛け合わせて推定した上場時の時価総額は9500億〜1.2兆円程度となる。2024年4~6月期の純利益を加味しても、1.1兆〜1.3兆円程度だ。
単純計算ではあるものの、2018年に1兆円の値段がついた株主価値は大きく伸びたとは言いづらく、6年という投資期間を考えれば投資ファンドとしては上場してもさほどリターンが出ない状況だ。
あくまで純資産をベースにした試算ではあるものの、株主価値が伸び悩むのは半導体業界特有のジェットコースターのような市況変化も一因だ。
キオクシアは2020年にも上場申請を行い、土壇場で撤回した経緯がある。当時、2020年6月末時点での純資産は7040億円だった。それからコロナ禍での半導体特需を受けて2021年度にかけて大きく稼いだものの、その後の大不況によって、好況期に稼いだ以上の純損失を吐き出す羽目になった。そのため純資産が大きく毀損されてしまったのだ。
AI半導体ブームでDRAM需要が爆発
PBRはその企業に対し、株式市場が抱いている将来の成長期待のバロメーターだ。もちろんキオクシアの将来への期待が競合を上回ったPBRで評価されれば、時価総額はその分高くなる。だが現実的にはそのハードルも高そうだ。
というのもネックになっているのは、キオクシアはNAND事業しか手がけていないということだ。
ライバル企業の多くは、一時記憶にも使われる半導体メモリーのDRAMも手がけており、こちらではAI半導体ブームによって超高性能品の需要が大爆発。大手メーカーはこぞって大増産まっただ中にあり、株式市場からの期待も大きい。
加えてキオクシアは、NANDビジネスでも競合に比べて課題は多い。AI処理を行うデータセンターが急成長しているが、そこではNANDをシステムとして組み上げて高速化したSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)が求められている。だがキオクシアは「SSDのビジネスにほとんど入れていない」と、イギリスの調査会社オムディアの杉山和弘コンサルティングディレクターは指摘する。
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