松山ケンイチ「フォロワー激減」で見せた"珍戦略" 逆張りの手法で、見事に映画の宣伝につなげている
東洋経済オンライン / 2024年10月17日 9時40分
おそらく、フォロー解除後も松山の投稿を目にしたというユーザーは少なくないだろう。映画公開後には通常どおりフォロワー増加が予想されることもあり、意外と影響力が無になるわけではないのである。
また、松山の「フォロー解除祈願」投稿を契機に、映画公式アカウントのフォロワーが急増した流れも興味深い。今回のプロモーションがうまくいったのは、ユーザーの能動性を引き出したことにも関連するのではないだろうか。
フォロー・リポストを求める施策の弱点も克服
たとえば、映画に限らず、企業の広告などでも「公式SNSアカウントをフォロー・リポストすると懸賞に応募できる」といった類のフォローを促すキャンペーンは多い。
このようなプロモーション手法は、抵抗を感じないユーザーであれば問題ないのだが、一方で「企業側の都合に付き合わされている」印象が生まれやすいのも事実だろう。
対して今回のケースは、松山個人の「こうなったらおもしろいんじゃないか?」という実験的な思いつきから始まっているのがポイントだ。それゆえに、SNS上でも「おもしろネタに乗っかろう」という空気が自然と醸成された。映画公式からの誘導はあったにせよ、「やらされ」感というよりは好意的に公式アカウントをフォローする流れが生まれていたと感じる。
たとえば、もし今回と同じような状況であっても、これが「キャストを使ったプロモーション」として企業側が仕掛けた施策であったならば、また見え方が違うはずだ。
昨今のSNS環境では、自分と似た価値観や考え方に基づく情報ばかりが集まり、思考が極端化してしまう「エコーチェンバー現象」のリスクが指摘されることもある。
しかし、今回のような娯楽的な内容であれば、頻出したところで特に害はない。松山は、自身のアカウントのフォロワー数が減ったことを喜びながら、それと同じ規模感の自治体の宣伝をしているだけなのだから。
そういう意味でも、シンプルなようで実は奥が深い、多方面から意表をついた企画なのである。
松山ケンイチ流SNS運用、天然か天才か
そもそも、松山自身に「自然体で、打算がなさそう」なイメージがあって、ネットユーザーも特に邪推せずポストを拡散したところも大きいだろう。
ちなみに彼は、今回の「フォロー解除祈願」ポストを始める前日まで、NHK連続テレビ小説『虎に翼』の感想を連日Xで書き連ね、そのマメで意欲的なドラマ実況で話題を呼んでいた。
意外にも放送期間中に朝ドラを見ていなかったという松山は、主演を務めた俳優・伊藤沙莉に勧められたことをきっかけに、ドラマを見ながら毎話の感想投稿を開始。登場人物に独特なあだ名をつけたり、時たま撮影中の裏話を挟み込んだりと、自由な感想で『虎に翼』ロスの視聴者を楽しませた。
しかも、「いくらなんでも毎回感想を書くのは、大変な労力なんじゃ……」というフォロワーの心配をよそに、全130話の朝ドラマラソンをおよそ2週間の短期間で完走したのには驚きだ。
なんと松山はこの目を見張る“継続力”を、今回の「フォロー解除祈願」においても見せている。投稿は1日限りではなく、定期的な呼びかけを繰り返し、そのたびにフォロワー数の経過を報告。松山ケンイチは本気のようだ。
一体彼はどこに熱意を傾けているのか、映画の宣伝に寄与するねらいはどの程度あったのか……疑問はいろいろと浮かんでくるが、独自のセンスで走り続けるその様子をこれからも見逃せない。映画『聖☆おにいさん THE MOVIE』が公開するまでに果たしてフォロワー数はどこまで減少するのか、今後もつい気にしてしまいそうだ。
白川 穂先:エンタメコラムニスト/文筆家
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