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「91歳父を86歳母が介護」カメラに残る最期の日々 「あなたのおみとり」に映る老老介護の日常

東洋経済オンライン / 2024年10月18日 6時0分

もともとは小津安二郎、清水宏に感化され劇映画を志していたという村上監督。撮影手法も、ちょっと変わっている。

たとえば、介護されている父を足もとから見上げるようにして撮る。足の裏が大映しとなる場面が幾度もあるのだ。「生と死」の話であるのに、客席でしばしば笑いが起きる。

「あれは『ハリーの災難』というヒッチコックの映画がヒント。ハリーの顔はまったく映らない。死んだ男の足もとから見上げるショットが象徴的で、父を撮っているときにやってみたくなったんです」

就寝する以外は、ずっとカメラを手にしていた

部屋は介護ベッドで半分を占められている。自然と撮り方は限られ「飽きてもくる。よく言えば、対象をあらゆる角度から見たくなった」

村上監督は、実家に滞在中は就寝する間以外ほぼカメラを手にしていた。

朝4時に起床し、まず庭の虫や花を撮る。「生命の循環、生き物の視点」を加えたいと思ったからだ。

8時にはヘルパー(訪問介護士)さんが訪問。これも、もちろん撮る。そして、家事をする母も撮影した。

午後は訪問看護師さん。使用したのはハンディカムのカメラだ。ひと月半の間「映画になりそうなものは何でも撮っていた」。

村上監督にとって意外だったのは、試写を観た訪問介護や訪問医療に関わる専門職の人たちから「教材になる」「学生に見せたい」と声をかけられたことだった。

「どこがよかったのか訊ねたら、ふだん自分たちがやっている仕事のそのままが映っていると言ってもらえたんですね」

「映画にも出てきますが、父が息をひきとったあと、火葬場でも撮りました。ご親族だけで骨を拾うところに限って撮ってもいいと言ってもらえたので」

とくに説明をしなかったので、ヘンなユーチューバーだと思われていたかもしれないと笑う。

91歳で亡くなった父は無宗教者だったため、僧侶も線香もなし。「納棺師さんに化粧をしてもらいました」。

その間、唇に紅をさし、頬の髭を剃るところにもカメラを向けた。家族だからこそ撮れたカットだ。ここぞとばかり「接写」した。そして自宅から棺を斎場に送り出した。

父の遺灰を海に撒きにいく

最後は父の遺言通り、海に遺灰を撒きにいった。集まった親族は10人未満。

「葬儀社さんに頼んで、松島湾の島めぐりをする遊覧船をチャーターしたんですが、乗り場は観光地にあるので、喪服では来ないでくださいと念押しされたんです。散骨が終わると、サービスで島めぐりをしてくれるんですよね。小1時間くらい。きょうは何しに来たんだろうかというくらい、晴れやかな気持ちで終えることができました」

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