「91歳父を86歳母が介護」カメラに残る最期の日々 「あなたのおみとり」に映る老老介護の日常
東洋経済オンライン / 2024年10月18日 6時0分
そんな映画のエンディングに流れるのは懐かしい、エノケン(榎本健一)が歌う「私の青空」。陽気なジャズのスタンダード・ナンバーだ。
「父を撮っているときから、最後はこれだなと。原曲は『My Blue Heaven』。父が生まれた昭和初期の歌で、家に帰ってくる嬉しさを歌っている。父も最後は家(うち)に帰りたいと言っていたし。古いジャズは死者を送る音楽でもある。とくに父がこの曲を好きだったわけではないんですけど、からっと終わりたかったので」
映画の完成後も「悲しい」と思ったことはないという。
「撮っている間も、編集しているときもむしろ楽しかった。25年くらいドキュメンタリーを作ってきたんですけど、こんなに楽しかったことはない。というのも、ドキュメンタリーは他人様のプライバシーを撮らせてもらうので、どんなに親しくはなっても遠慮がある。でも、今回は父だし。父から、やめろとか一言もいわれなかった」
小学校の教員だった父は黙って撮られていたが、もう1人の主人公である母は意外なまでに協力的だったそうだ。
「母はこれまで、ずっと批判的だったんです。いつまでもブラブラしていないで、とか。フリーというけど、あんた無職でしょうとか。それが驚くくらい今回の映画に関しては終始、協力的だったんですよ」
長年連れ添った夫婦ではあるが、介護の合間に「1年間お父さんとケンカして話さなかったこともあったのよ」「本当に面白みのない人だった」と息子に話す。あっけらかんと。そうかと思えば、1時間余り父の足をさすることをやめずにいる。
子どもたちが自立したあとに2人で旅行した日のことを、父の枕元で聞かせたこともあった。
「お父さん、好きだったのよ」とイワシの煮つけをお隣さんの分も含めこしらえる。カメラはそうした母をもう1人の主人公として記録していった。
気持ちの整理をすることができた
介護が長引くほど、日付も曜日もわからなくなる。思考に余裕がなくなる。撮影から学んだのは、記録することの利点。簡単な日記でもいいから書き留めることで気持ちの整理にもなるし、泥沼にハマらずにすむ。これは「当事者」として気づいたことだという。
果たして息子のカメラを目にしていた無口な父親が何を思っていたのか。問いかけることはできなかったそうだが、映画は父親からの最後のプレゼントになった。
【2024年10月18日14時追記】初出時、一部事実と異なる部分がありましたので、上記のように修正しました。
朝山 実:インタビューライター
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