インド「ヒンドゥー教の国を脱却」した"民衆の力" 人民党はなぜ議席数を減らすことになったのか
東洋経済オンライン / 2024年10月21日 18時0分
モディ政権の10年間にヒンドゥー至上主義は加速した。特に問題となったのはイスラム教徒の移民を排除した2019年の市民権法改正だ。これは宗教的な帰属を国籍の要件とするもので、他宗教との共存を前提とする世俗主義の伝統のなかで生きてきたインドのイスラム教徒にとっては、受け入れ難い法律だった。
キャスティングボート握る地域政党
インドにはイスラム教徒の大きな政党がない。このため、特定政党の議席数の変化でイスラム教徒の動向を直接見ることができない。イスラム教徒の有権者の意識が見えにくいのが、インドの政治の特徴だ。
議席数80と最大議席数を持つウッタル・プラデーシュ州では、インド人民党が大きく後退したのに対し、イスラム政党ではないがイスラム教徒を支持層に持つ地域政党が勢力を回復する形となった。同様にイスラム教徒の支持が多い西ベンガルの地域政党も議席数を大きく伸ばした。
ただ発展途上社会研究センター(CSDS)によると、インド人民党の全国での得票率の低下は、前回とくらべて1%以下の低下に留まっていて、実は大きなインド人民党離れが起きたとは決していえない。
議席獲得には至らなかったものの、モディが繰り返し遊説に訪れた南部タミルナドゥ州などでは、インド人民党は得票率を伸ばしさえしている。モディ人気は衰えていなかったのだ。
インド政治のなかで3期連続で同じ人物が首相を務めるのは、初代首相のジャワハルラール・ネルー以来の快挙である。CSDSの調査では、前回から6%低下したものの、依然として投票者の59%がモディ政権に満足していると回答している。
インドの総選挙は、小選挙区制の微妙なバランスが大きな議席数の変化となって現れる仕組みの上に成り立っている。
多くの先進国で見られるような二大政党制の駆け引きの力のバランスに加えて、インドの場合、二大政党のいずれにも属さない地域政党の動向が多数派を決める際のキャスティングボートの働きをする。さらにこの地域政党内に派閥争いがあり、二大政党のいずれと連合を組むのかがその時々の情勢に応じて揺らぐ。
イデオロギーや政策論争といった普遍的で客観的な価値基準で仲間が決まるのではなく、ちょっとした力関係の変化で大きな雪崩現象が起きやすい構造となっている。
もともと小選挙区制なので「死票」つまり有権者の意向が反映されずに終わってしまう票が多い。大きな議席数の変化として現れた選挙結果であっても、実は有権者が投票行動を決めるさまざまな要素が、まだらの模様の見え方を変化させたに過ぎないこともある。
緊張の中で行われた総選挙
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