インド「ヒンドゥー教の国を脱却」した"民衆の力" 人民党はなぜ議席数を減らすことになったのか
東洋経済オンライン / 2024年10月21日 18時0分
インド人民党が後退したように見えたのは、前回の2019年の選挙で勝ちすぎたからという見方もできる。
インド人民党は核実験を強行するなど「強いインド」を訴え、国威発揚の熱狂で力を伸ばしてきた。
前回の総選挙の直前の2019年2月26日には、バーラーコート空爆があった。イスラム過激派の拠点を破壊するためにインド空軍がパキスタン領内で行ったもので、パキスタンに対する越境空爆は1971年の第三次印パ戦争以来48年ぶりのものであった。
ジャンムー・カシミール州プルワマ県の国道を走行していた治安部隊のバスに爆弾を積んだ乗用車が突っ込む自爆テロが発生し、イスラム過激派組織であるジャイシュ=エ=ムハンマドが犯行声明を出した。
パキスタンは事件に対する一切の関与を否定したが、インドの空軍がプルワマ襲撃事件に対する報復として空爆を実施した。これに対し、パキスタン空軍は自軍機がインド空軍機を撃墜して、パイロットの身柄を確保したと発表した。
総選挙はこうした両国の緊張の空気のなかで行われていた。
野党の大幅な議席増については、国民会議派と地域政党との選挙協力がようやく機能したという点を指摘できる。
国民会議派は政権を担っていた時代に、地域政党に対して高飛車な態度をとることがあり、インド人民党が地域勢力を取り込むなかで、国民会議派は中央だけが孤立するということを繰り返してきたが、2024年の総選挙で国民会議派は大票田で野党の選挙協力を巧みに進め、議席増に確実につなげることに成功した。
モディ政権の実績にひととおり満足はする有権者が多いなかでも、長期政権に対する飽きや失望の意向をすくいあげ、勢力拮抗のバランスをとらせようとする感覚が働いた。
自分たちの暮らしを守りたいという意識は特に農業で顕著に現れた。
背景には農業改革3法をめぐる事情がある。農業自由化を骨子とする3法に、農民は農産物の最低価格保証の撤廃を招くとして強く反発し、法案が成立すると直後から農民による大規模な抗議運動が続いた。
与党側は最終的に法律を撤回し、農民は最低価格保証の制度化を求める運動を再開した。農民による激しい抗議が続いたパンジャブ州でインド人民党は全議席を失っている。
連立政権運営という試練
「民主主義のDNAが機能し、インドがヒンドゥー教の国にはならなかった」という結果は、同時に民主主義の弱さと共存しなければならないということも意味する。
10年ぶりに中心政党が過半数に達しない事態となったため、常にインド人民党を圧勝に導いてきたモディ首相は、連立政権運営というはじめての試練に臨むことになった。
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