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稲盛和夫さん「胃がんがわかっても平常心」の強さ 30年間にわたり彼を見てきた参謀のノートより

東洋経済オンライン / 2024年10月21日 19時0分

稲盛さんはそのことを知ると少し驚いたようですが、入院するまでは予定通り仕事をすると話し、動ずることはありませんでした。

手術では胃の3分の2ほどを摘出したのですが、そのとき進行性のがんであることもわかり、手術が遅れると大変なことになっていた可能性もあったそうです。しかし、それも冗談のように明るく話していました。

胃がんの手術は難しいものではないのですが、回復は思わしくありません。あとで縫合がうまくいっていないことがわかり、結局、入院は1カ月あまりの長期になりました。

その数カ月後、稲盛さんは胃がんの手術時に予定していた得度をし、術後十分に体力も回復していない身体で仏門に入り、厳しい修行を始めます。

その修行が終わると、従来のように精力的に仕事をするようになるのですが、その翌年、腸閉塞を起こし、また1カ月ほど入院します。その1年後には出張先の南アメリカで腸閉塞を再発させ、緊急帰国をして入院します。

このように、命にかかわるような病に短期間で3回も罹り、入退院を繰り返すのですが、それでも常に自然体で、取り乱すことはまったくありませんでした。それを見て私は、平常心とはこういうことかと感じたのです。

私が2度目に平常心の大切さを痛感したのは、稲盛さんがJAL再建に関わったときです。稲盛さんの会長就任が発表されると、78歳と高齢で航空業界に素人の稲盛さんを会長に据えたこと自体がおかしいとの批判が巻き起こりました。

そもそもマスコミは、巨額の赤字決算が続き、組合問題や安全問題を抱えるJALの再建は、誰が経営者になろうとできるはずはないと断言していました。そのなかには、稲盛さんは功名心で会長を引き受けたのだろうが、最後に貧乏くじを引き、晩節を汚し、それまで築き上げた名声もすべてなくしてしまうだろうとの報道もありました。

会長就任を固辞し続けたにもかかわらず、政府からの強い要請を受けて会長に就任せざる得なくなった稲盛さんにとっては、極めて不本意な報道です。

逆境の中でも平常心を失わない

しかし、それに動ずることはまったくありませんでした。

JALに着任した当初は、社内の人たちの視線も冷たいものでした。「誰も心を許して話してくれない」「四面楚歌とはこういうものか」と私に嘆いていたこともありましたが、そのような深い谷底に落とされたような逆境のなかでも、稲盛さんは焦ることもおもねることもなく、平常心を失うことはありませんでした。

名経営者としての評価を失うと危惧されても、マスコミから厳しく批判されても、社員から冷たい視線を浴びても、会長として常に明るく前向きに振る舞い、経営判断もブレることはありませんでした。

その折々の言動や判断は社員を安心させ、活気づかせました。一緒に再建に取り組むことになった私自身も、当時は不安に思うことばかりでしたので、いつもと変わらぬ稲盛さんの姿を見て、勇気づけられていました。

稲盛さんはよく中国古典の『呻吟語(しんぎんご)』のなかにある「深沈厚重なるは、これ第一等の資質」という言葉を引用し、何事にも動じず、物事を深く考えられることが人間として一番大事な資質だと話していました。それは、平常心を持つということとほとんど同義語であり、稲盛さんの生き方に近いと思うのです。

大田 嘉仁

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