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「お前のことがムカつく」友人のメールに思うこと 燃え殻「迷惑をかけたあの日のこと」と彼の記憶

東洋経済オンライン / 2024年10月24日 15時0分

結局、半年くらい僕の隠遁生活はつづく。彼はその半年間、二日から三日に一度、当たり前のように食事を届けてくれて、話をひたすら聞いてくれた。言い過ぎではなく、命の恩人だと思っている。そのときの恩を返すときがやっときた、と僕は思った。彼はある時期はとんでもなくハイになり、そうなったあとは、信じられないくらいにローになって、攻撃的なメールを友人知人にやたらめったら送ってしまう。

今日は疲れた。いい意味だけど

僕に会ったとき彼は、ポロポロと涙を流しながら、嵐の中に突っ立っているような落ち着かない気持ちと、内臓を搔きむしりたくなるほどのかゆみに襲われることについて力説してくれた。僕にも身に覚えがあることばかりだった。「あー、あるある」とか「ああ、その感じ懐かしいな。いまでもときどきあるけど……」などと僕が合いの手を入れていると、彼は最初泣いていたのにだんだん可笑しくなってきたらしく、両手で顔を覆いながら笑い始めた。「気持ち悪いだろ?」と彼が言う。「まー、みんな気持ち悪いですよ」と僕は返す。

渋谷の喫茶室ルノアールで、そんな調子で三時間くらいふたりで話した。店を出ると、そこは週末の渋谷。これから飲みに出かける人の波で、うまく歩けないくらいだった。

「今日は疲れた。いい意味だけど……」と彼が帰り道、僕に言ってくれた。半年間、コンビニ弁当と飲み物を届けてくれたお礼を、僕はそのときやっと言えた。「いろいろだな」と彼はもう一度笑う。

その夜、彼から一通のメールが届いた。「夜になると苦しいよ」という内容だった。一筋縄でいくことなんて、いままでもこれからもほとんどないだろう。それでもいい。根気よく傍らに誰かがいてくれれば、その誰かになれたなら、人生はどうにかやり過ごせることを、僕はもう知っている。

日々を生きる上での避難場所

日々を生きる上で、いくつか避難場所を持っている。例えば、スッとフェイントをかけて逃げ込める、絶対知り合いが来ない喫茶店。治安のいい図書館。バカみたいに人でごった返さない映画館。自分にとって品揃えがいい書店。

その中でも映画館は、東京からちょっと外れた場所にあるほうがいい。僕の行きつけは『シネマ・ジャック&ベティ』。横浜市中区にある名画座。エスカレーターで二階に上がると、味のある売店がまず現れる。館内はこぢんまりとしているが、椅子は深く座れて、窮屈な気持ちにならない。かかっている映画がだいたい好みなのも嬉しい。

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