禅僧が「終活フェア」で目にしたシュールな光景 「死んでも生きる気マンマン」の来場者たち
東洋経済オンライン / 2024年10月30日 15時30分
もっともポピュラーな死のイメージは「この世でないどこかに行く」というものです。
たいがいは、この世とあの世に境目があり、関所のようなところに裁判官的「カミサマ」がいて、よいことをした人はよいところへ(天国とか極楽)、悪いことをした人はひどいところ(地獄)へ送り込まれる、そんなストーリーになっています。
少し前に、死んだら千の風になるという話も流行りました。風は、最初から最後までただ「風」です。「私」が、風になることはあり得ません。
どれもこれも、死ねば「ここ」から別の「どこか」へ行く、違う「何か」になる話です。生まれたときから「自分」だから、肉体がなくなった後もここではないどこかで「自分」は続く、姿を変えた自分が残る。そういう錯覚をみんな持っているのです。
これは、死を解釈しているのではなく、自分たちが死なないようにしているだけです。
釈迦は、死後については「無記(むき)」の姿勢を貫いています。「死後の世界があるかどうかはわからない。どうなるかもわからない」としか言い残していません。
ただしこの時点で、ひとつだけわかることがあります。すべてが、そこでは無意味になることは間違いありません。なぜなら、「意味」は生きている人間が生きている間に考えることだからです。
しかし、それでは普通の人間には耐えられない。それで人間は、星や風、あの世など「どこか」へ移動する話を持ち出しているのです。
心配は要りません。特別な何かをしなくても、全員死ぬことはできます。だから、死を乗り越えようとしなくてもいいのです。また、ふと生まれてきただけの人生の終わりに、ことさら「意味」や「価値」を求める必要もないのです。
「この世」より「あの世」を心配するのは筋違い
以前、「終活フェア」に誘われ、興味本位で会場に足を運んでみたときのことです。「墓地案内」から「遺言コーナー」まであり、会場はお祭りのように賑わっていました。驚いたのは、「棺桶体験コーナー」です。数万円から数十万円まで、ずらっと棺桶が並び、実際に「体験」できるようになっています。
ちょうど中年の女性が、棺桶の中に入っている夫をのぞき込んでいました。
「お父さん、どう?」
「うん、なかなかいい寝心地だ」
棺桶に入ったらそのまま焼かれてしまうのだから、寝心地がわかったら大変です。「なるほど、この人は死なないつもりなのか」と思いながら聞いていましたが、なかなかシュールな光景でした。
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