過去10年で最大の流行「マイコプラズマ肺炎」とは 知っておきたい感染経路、症状、検査、予防、治療
東洋経済オンライン / 2024年10月30日 8時30分
風邪をひいたあと、咳だけが数週間続く患者は少なくない。だからマイコプラズマ感染か、それ以外の感染症か、鑑別診断するのは感染症に詳しい医師であっても難しい。
治療についてだが、マイコプラズマには普通の抗菌薬が効かないことは前述した。使うならマクロライド系のエリスロマイシンや、クラリスロマイシンを処方しなければならない。
実は近年、マクロライド系の抗菌薬が効かない「マクロライド耐性マイコプラズマ」の増加が問題となっている。2000年以降、小児を中心に耐性株が増加し、2011~2012年の流行では83%を占めた。
マイコプラズマは、P1タンパク質の遺伝子により1型と2型に分類されるが、これはこの間に流行した1型に耐性株が多かったためだ。2015年以降、2型株が増加し、耐性株の割合は低下しているが、マクロライドを多用した場合、2型でも耐性株が増加する可能性がある。
「かもしれない」で抗菌薬を使わない
マクロライド以外の治療薬も存在するため、耐性株に対してまったく治療法がないわけではないが、耐性菌の出現を防ぐため、マイコプラズマ感染症とは考えにくい患者には使わないほうがいい。
ところが、担当医がマイコプラズマ感染の可能性は低いと考えていても、患者や保護者が強く抗菌薬を希望したら断りにくい。だが、マイコプラズマかもしれないというレベルで安易に抗菌薬を使うのは問題だと、筆者は考える。
ところが、実際は過剰な処方が続いている。それは昨年の中国での大流行をはじめ、世界各地でマイコプラズマの流行が報告されているからだ。おそらく当面は続くだろう。こうした状況下だと、「かもしれない」で使うケースも増えてしまう。
流行の背景には、コロナパンデミック下で社会活動が制限され、集団免疫が低下した可能性、およびコロナ感染が免疫力を低下させた可能性が指摘されている。
コロナ感染が人の免疫システムを弱めて免疫力を低下させるなら、コロナの集団免疫が確立し、夏冬の流行が一段落するまで、この状況は続くはずだ。マイコプラズマの流行が、今後も続いてもおかしくはないし、おそらく今シーズンはさらに感染者は増えるだろう。
しかし、繰り返すが、マイコプラズマ感染症は重症化しにくく、自然治癒する。万が一、肺炎になっても治療薬が存在する。
予防法もある。厚労省のホームページも書いてあるが、手洗いが有効だ。特にこれからの時期は、流水と石けんでよく洗うこと。マイコプラズマ肺炎と診断されたら、家族間でタオルの共用はやめる。咳症状があったら不織布マスクを着用し、他人にうつさない対策も必要だろう。
これからの感染拡大に備え、社会が正確な情報を共有し、過度に恐れないことが重要だ。
上 昌広:医療ガバナンス研究所理事長
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