忙しい時つい見失いがちなビジネスの鉄則とは 起業家として大成功したミュージシャンの教え
東洋経済オンライン / 2024年10月31日 10時30分
(1ページより)
シヴァーズが話すことの大半は、失敗に関するものであり、その内容は、すべての読者に合うとは限らないと認めてもいる。
しかし評者は、それでも多くの人――音楽に興味のない人も含めて――が読むべき書籍だと強く感じた。
なぜなら彼の考え方は、音楽産業の枠を超え、ビジネス全般に応用できるものばかりだからだ。
そのことを立証するために、いくつかのトピックスを抜き出してみることにしよう。
「完璧な世界」を前提にしてみる
前述のようにシヴァーズは、自分のCDを売りたいという純粋な理由からCDベイビーを立ち上げた。
すると他のミュージシャンから「俺のCDも売ってくれないか?」という依頼が殺到し、気がつけばそれがビジネスになっていたのだ。
特筆すべきは、彼が「ビジネスなんてしたくはなかった」と明言している点だ。
その理由はいたってシンプル。フルタイムのミュージシャンとして生計を立てることができていたので、その邪魔になるようなことは避けたかったのである。
そこで、非現実的なほど理想的なやり方をすれば、ビジネスが大きくなりすぎることはないだろうと考えた。ビジネスを大きくしたくはなかった。小さいままでいいと思っていた。
(11ページより)
要するに、「ビジネスを大きくしたい」というビジネスパーソン的な通常の野心とは正反対の考え方を持っていたということだ。
そして彼はミュージシャンの視点に立って「夢の流通契約」を考えた。
それは既存の流通業者がやってくれないことで、シヴァーズにとって「ユートピアのような完璧な世界」だった。
1 毎週、支払いをしてくれる。
2 自分のCDを買ってくれた顧客全員の氏名と住所を教えてくれる(それはミュージシャンのファンであって、流通業者のファンではない)。
3 CDが売れなくても、システムから追い出されない(5年に1枚しか売れなくても、売り続けてくれる)。
4 ウェブサイト上で有料の優先表示はしない(資金の余裕がない人に不公平だから)。
(12ページより)
音楽産業に詳しい方なら、このやり方がいかに画期的であるかがわかるはずだ。大手レコード会社のビジネスとは対照的な、インディーズ視点のアプローチだからである。
顧客とのつながりを大切にするという発想も、いたってDIY的。1960年代以来、音楽活動からマーケティングまで、すべての業務を自分たちでやってきたグレイトフル・デッドというバンドの姿勢に通じるものがある。
起業とは、自分のユートピアをつくること
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