医局に入らないことを決めた医師の"その後" 辞める前に知っておくべき「リスクとリターン」
東洋経済オンライン / 2024年11月1日 16時0分
おおげさに言えば、この世のすべてのものは、リスク(危険や良くないこと)をあるある程度取らなければ、人と違うレベルになることはできない。人と同じことをしていては、人と同じ結果しか出ないのだ。
「暗闇でジャンプ」
だから、僕はこの外科医人生を危険なほうに賭けた。自分の才能を信じた、というのはカッコつけすぎで、大丈夫かな、ダメかもな、でも平凡で終わりたくない、だったら挑戦してみたい、と選んだのだ。
まるで「暗闇でジャンプ」するような気持ちだった。着地ができなければそれでゲームオーバー。
でも、「選択」とは、何かを選ぶことではない。選んだ選択肢があとから「やっぱり大正解だったな」と言えるように、人が休んでいる間におそろしいほどの努力をして現実世界を捻じ曲げることだ。
僕はその覚悟を持って、医局に入らないことを自分で決めた。
「先のことはまた考えればいい」という先輩の言葉は背中を押してくれた。
でも、最後に決定する時は、僕は誰にも相談はしなかった。人に決めてもらったら覚悟が弱くなるからね。
現実は努力で捻じ曲がった
その結果、どうなったか?
果たしてそれから16年が経った。
僕は、最初の5年くらいは「なんでも人の3倍やろう」と決めた。2倍じゃ、抜きん出ることはできない。1日は24時間しかないから、僕は人の倍のスピードでやり、さらに人の倍の時間をかけた。手術の練習も、同僚が1時間やるなら僕は2時間、という具合だ。
自分の外科医としての技術を評価することは簡単ではないが、おそらく僕の技術は抜きん出ていると思う。厳しい環境で人の3倍を続けたのだから、当たり前だと思っている。
僕は外科業界の「超重鎮しか手術教科書を出さない」慣例を破り、42歳という若さで手術の教科書を出した。今もまた次の手術教科書を作っている。
僕は階段を駆け上がった。賭けに勝ったのだ。僕は合格率24%の手術ビデオ試験に最速で合格した。現実は僕の努力で捻じ曲がったのだ。
でも、決して偉そうにしちゃいけない。
僕を教えてくれた外科医や多くの人に助けてもらってのことだ。神輿に担がれていることを忘れてはならない。
僕はいただいた技術を目の前の患者さんの手術をすることで還元し、同時に全国の外科医の教育のために教科書を書いたり講演をしたりしている。加えて、医局に入り、地道に地域の医療に身を捧げながら外科医として踏ん張る医師たちを心から尊敬している。僕みたいな利己的な人ばかりでは、この世界は成り立たないのもまた事実である。
中山 祐次郎:外科医
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