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定年世代が戸惑う「多様性の時代」の受け入れ方 「高度経済成長期」は迷うほど選択肢がなかった

東洋経済オンライン / 2024年11月1日 20時0分

私の運営するコミュニティには、さまざまな企業の人事担当者が集まる会もあるのですが、大企業では社員の定年後の生き方が議論の一大テーマになっているといいます。実際に、プロティアン・キャリア協会に所属している長谷川さんは、定年前の58歳の頃、仕事帰りに映画『終わった人』を観て、定年後の人生に焦りを覚えたそうです。

『終わった人』は内館牧子さんの小説を原作にした映画で、大手銀行の子会社で定年を迎えた主人公の男性が、第2のキャリアを築くために奮闘する姿を描いています。仕事=人生だった男の「定年って生前葬だな」とつぶやく姿がリアルで、長谷川さんも「自分のことだ」と感じて行動を始めたそうです。

長谷川さんはとにかく、定年後に関連する本を読み漁りました。なぜなら、他の人がどうしているのかわからなかったからです。

今定年を迎えている人、またはこれから定年となる人たちは、若い頃はいわゆる昭和の価値観で懸命に働いてきました。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という時代を経験し、明るい将来を疑わずに生きてきたわけです。

ところが、平成のバブル崩壊、失われた20年を経て、令和になって多様性の時代に放り込まれます。自分が思い描いてきた老後とは異なる時代が訪れて、「あなたは本当にそれでいいの?」と突きつけられているのです。

楽しみは「大谷選手のホームラン」だけ

70代のある男性は、「大谷選手のホームランくらいしか楽しみがない」とこぼします。とっくに子育ては終わったものの、我が子は晩婚化の流れの中で未だに結婚をしておらず、もちろん孫はなし。家族との会話もめっきり減って、本音を話せる相手もいないことに気づきます。あんなに嫌だった対面での接客商売が「案外、やりがいだったのかもしれない」と振り返ることもあるそうです。

もちろん、それまで蓄えた資産をもとに悠々自適に暮らしている人たちや、定年を機に新たな楽しみを見つけた人もいますが、特に趣味などもなく、時間を持て余している人も多いといいます。

だからこそ今必要なのは、キャリアを人生そのものと捉えて、人生の解像度を少しでも高めることです。そのときの環境に応じて、小さな目標でもかまいません。それが自分にとって意味あるものだと思えることが、何より重要です。

そして、そこに向かうプロセスで得られる幸福感=「心理的成功」の感覚を、身に付けていきましょう。それが、他の誰かに与えてもらう幸福ではなく、自分で自分を幸せにしていくことにつながるのです。

先に紹介した長谷川さんも、自分が「終わった人」になるかもしれないと危機感を抱いたときには、特にやりたいことも、やるべきこともありませんでした。しかし、「定年本」を読み漁る中でキャリアコンサルタントという存在を知り、自分も資格を取ろうと決め、そこから勉強仲間と知り合い、私とも出会うことになりました。長谷川さんはこう振り返っています。

「戦略的に人脈を作ってきたわけではありません。でも、出会った人たちとの関わりの中で思いもよらない学びがあったり、新しいコミュニティに参加する機会があったり、自分も成長している気がします。まだ他人のキャリアにどれほど影響を与えられているかはわかりませんが、少しずつ支援できている実感はあります」

有山 徹:一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事

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