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「急激に衰えてしまう人」に何が起きているのか 年齢を理由に自分の可能性を狭めてはいけない

東洋経済オンライン / 2024年11月1日 19時0分

前項目の「老いを受け入れる」にも通じることですが、病気に関しても、「なったらなったなりに生きていく」という精神を持つことが、老年期を心豊かに過ごすための極意なのだと思います。

人は必ず老いるものですし、老いるということは病気になるということです。ある程度の年齢になれば、何かしらの疾患を抱えていない人はほぼいないのです。

病気をはねのけるような生き方は、ある時期まではもちろん大切ですし、効果を発揮するでしょう。けれど、では病気になったら人生が終わりなのかというと、そんなことは決してありません。

病気を忌まわしいものととらえ、そこから目を背けるのではなく、「ともに生きる」とwithの精神で生きていく。病気であることを受け入れたうえで、どうすれば幸せになれるのかを探究するほうが、ずっと建設的だと思います。

精神科医の森田正馬さんが提唱した「森田療法」というものがあります。

これは、不安を取り除こうとするのではなく、不安を抱えたままどう生きるかという考え方が特徴の心の治療法です。つまり、変えられることについては悩み、変えられないことについては受け入れるということです。

たとえば、「自分は赤面症だから人から好かれない」という悩みを抱える患者さんがいたとします。

そのときに、森田療法ではその人の「顔が赤くなること」自体を変えようとはしません。赤面症であることを受容したうえで、人から好かれるための方法を考えるというアプローチをとるのです。

たとえば、もっとにこやかな表情を浮かべたり、話し方を変えたり、あるいは「尊敬している人の前では顔が赤くなっちゃうんです」とあらかじめ相手に伝えたりする、などといったアドバイスをします。

病気になった時もこのような考え方ができると、そこから先の生き方が変わってくるのではないでしょうか。

もちろん、病気の治癒を目指すのは大切なことです。ここで指しているのは、それが難しい場合についてです。仮に快復の見込みが持ちづらい病になったときは、その病気があることを前提としたうえで、どうやってその先の人生を前向きに歩んでいくのかを考えることが大切なのだと思います。

闘病ではなく、ともに生きる「共病」の精神を持ち、病気を手なずけながら生きていく……シニアに求められるのは、そんな穏やかな精神なのではないでしょうか。

「今あるものに目を向ける」

その具体的な方法が、「今あるものに目を向ける」ということだと思います。まだ自分ができること、残っている能力に目を向け、大切にしながら生きるのです。

たとえ寝たきりになったとしても、詩や絵画の創作に意欲を燃やすなどして、「今できること」を最大限に生かしている方はたくさんいます。

パラリンピックの選手たちは、多くの競技において、健常者をはるかに凌駕する能力を見せます。持っている能力を最大まで高め、その突出したレベルで世界を相手に戦っているのです。これは、「できること」を極限まで伸ばした例と言えるでしょう。

「できないこと」が生まれたときは、代わりに「できること」をどこまで伸ばせるか、新たな挑戦が始まっているのではないでしょうか。

和田 秀樹:精神科医

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