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「シグナル」闇バイトに悪用されるアプリの正体 徹底したプライバシー保護姿勢が生まれた背景

東洋経済オンライン / 2024年11月6日 9時0分

ウィテカー氏は以前、グーグル社員として公開データの活用方法などを研究していたが、同社が大量の個人データをAI開発など商業目的に利用する姿勢に疑問を感じ、グーグルを退社してプライバシーを最優先するシグナルに加わったとされる。

「プライバシー至上主義」を逆手にとって悪用

現在のシグナルは「エンドツーエンドの暗号化」など強力なセキュリティ機能で知られるが、その技術はフェイスブック(現メタ)の「WhatsApp」や「メッセンジャー」、さらにグーグルのチャットなどにも搭載されている。従って、こうした技術的側面だけを見るなら、通信の秘匿性を求めるからといって必ずしもシグナルを利用する必要はない。

しかしセキュリティ専門家の多くはそれでもシグナルを推奨している。その主な理由はシグナル財団の徹底したプライバシー管理体制にある。たんにメッセージを暗号化するだけではなく、シグナルの利用者を特定する電話番号などのID(識別情報)や暗号解読用の鍵情報など、いわゆる「メタデータ」と呼ばれる重要情報をサーバーから(通信終了後に)自動的に消去してしまうのである。

このため、後から警察など政府機関がシグナル財団に利用者情報などの提供を求めたとしても、原理的にそれに応じることはできない。提供したくても情報は残っていないからだ。

これら高度なセキュリティ技術と徹底した利用者保護の姿勢が評価され、シグナルは世界中のジャーナリストや人権団体、あるいは独裁国家における反体制派や一部の政治家らが秘密情報をやりとりするために利用している。

だが、一方でシグナルはテロリストや麻薬密売人など犯罪者間の連絡、あるいは児童ポルノ画像の共有などさまざまな悪事にも利用されている。今回の「闇バイトによる強盗」事件もシグナルが悪用された典型的ケースと言えるだろう。

これらを憂慮して、政府関係者の中には「シグナルのプライバシー(利用者)保護は行き過ぎだ」と考えている人は少なくないようだ。「エンドツーエンドの暗号化」など技術面はとにかく、「メタデータの消去まで踏み込む必要はあるのか?」ということだ。

シグナル財団がここまで徹底して利用者あるいはその個人情報を保護しようとする背景には、いわゆる「監視資本主義」あるいは「国家・企業監視」など昨今の産業界を取り巻くトレンドがある。

これらはグーグルやフェイスブックなどIT企業が大量の個人情報を取得し、それをベースにターゲット広告を打って巨万の利益を稼ぎ出すことや、あるいはそれらのIT企業が政府の要求に応じてユーザー情報を提供したりすることーーたとえば、かつてスノーデン氏が暴露した「プリズム」など、政府と企業が共同で国民らを監視するプログラムーーを指している。

プライバシー保護の姿勢はイデオロギーの領域

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