「虎に翼」同調圧力の強い現代日本へ投じた一石 見る人それぞれの「私のための物語」だった
東洋経済オンライン / 2024年11月7日 19時0分
さまざまな矛盾を抱える社会のなかで日々生きづらさを感じている人たちに、「虎に翼」主人公・寅子の「はて?」は、私も声をあげていいんだ、闘ってもいいんだという気づきと勇気の輪を広げ、大きな共感を得た。その影響力とは。
普段朝ドラは見ない層が反応
この4月から、いろんなところで「虎に翼」について話す人たちと出会った。面白いことに、そのほとんどが普段朝ドラは見ないという層だった。朝の忙しさに追われて、「自分向けではない」とスルーしていた朝ドラに、今回だけは反応した。それは「虎に翼」が、見る人にとって「私のための物語」だったからだ。
男女雇用機会均等法が施行されて38年。表面的には男女が平等な社会に近づきつつある。けれど実際のところ、私たちが生きているこの地平をジェンダーギャップのない楽園だと思っている人はごくわずかだろう。
埋まらない賃金格差。共働きであるはずなのに家事労働や育児の負担は女性にばかり偏り、それによって自身のキャリアを中断せざるを得なかった女性も多い。みんな、うっすらと怒っていた。でも、声を上げたところで社会は変わらないとあきらめかけていた。私一人の声なんてどこにも届かないと心をへし折られかけていた。
そんなとき、「はて?」と声を上げてくれたのが「虎に翼」だった。主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)とその仲間たちは、今よりずっと性差別の激しい世の中で、何度石を投げられても自分を曲げずに貫き通した。その姿に、視聴者は歓喜した。私も闘っていいんだと鼓舞された。「虎に翼」が生んだ熱狂の中心にあったのは、怒りと勇気の輪だった。
近年、坂元裕二や野木亜紀子といった作家が旗手となって、日本にもフェミニズムをベースとした映像作品は増えつつあったけれど、朝ドラというメインストリートでそれを実践したことで、ムーブメントが爆発した。「虎に翼」は、同調圧力の強い日本社会で、おかしいと思ったら声をあげていいんだという気づきを、視聴者に与えてくれた。
狭量さが私たちを「スンッ」とさせる
けれど、ただのウーマンエンパワーメントドラマなら、ここまでの議論を生むことはなかっただろう。「虎に翼」の真に恐ろしいところは、女性差別との闘いで視聴者を結託させながら、物語が進むにつれて、差別と闘う私たちもまた差別を生む社会の構成要素となっているという自覚を促したことだ。
その発端が、恩師の穂高と寅子の対立だ。妊娠が判明した途端、同じ志を持つ仲間ではなく、「いいお母さん」に仕分けした穂高のことを、寅子は最後まで許さなかった。祝賀会の場で恩師に花束を贈る役目を固辞した寅子に対し、「大人げない」と眉をひそめる声でSNS上は大いに荒れた。
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