「虎に翼」同調圧力の強い現代日本へ投じた一石 見る人それぞれの「私のための物語」だった
東洋経済オンライン / 2024年11月7日 19時0分
さらに、仕事に邁進するあまり家事も育児も兄嫁の花江(森田望智)に丸投げ状態の寅子を「母親失格」と批判する声も日増しに激しくなっていった。
これらの声が、間違いというわけではない。ただ一つ言えることは、寅子自身は最初から何も変わっていないのだ。納得できないことにおもねるようなことをしないのも、家事より勉学や仕事に燃えるタイプなのも昔から。
なんならそれらを美点とし、猪突猛進な寅子を応援していたはずだった。なのに、寅子が大人になったことで、あるいは権力を持ったことで、見方が変わる。「いい大人なんだから」とわきまえることを求め、「母親らしさ」を押しつける。女性に「スンッ」を強要していたのは、社会や男性だけではなかった。
物言う他者を「スンッ」とさせたい心が、自分たちのなかにもある。誰しもが大なり小なり「かくあるべき」という幻想を持っていて、そこから逸脱した者を糾弾する。
2024年になった今も、私たちが生きづらさに苦しめられ続けているのは、社会の構造だけが理由ではなく、自分と違う他者を認められない狭量さにあることを「虎に翼」は炙り出したのだった。
当たり前への爽快なアンチテーゼ
ただ、「虎に翼」は決して誰かを断罪するためのドラマではなかった。私たちは無自覚のうちに誰かを差別したり、善意のつもりで他者から自由や権利を取り上げたりする。でも、それらに気づくことができれば、行動は変わる。
後半に入った「虎に翼」は、これまで見えていなかったもの/見ようとしなかったものを積極的に浮かび上がらせることを試みていた。ゲイの轟(戸塚純貴)やその恋人の遠藤(和田正人)、性別適合手術を受けた山田(中村中)がその一例だ。
異性愛が一般的とされる世の中で、異性愛者はつい自分たちの物差しで物事を見てしまう。けれど、その物差しが誰しもに当てはまるものではないと気づけるだけで、世界の見え方が変わってくる。
先人たちの努力によって、自分にとっては歩きやすく舗装された道が、別の誰かにとってはまだまだ険しい獣道かもしれない。ならば、今度は自分が誰かのために道が歩きやすくなるよう一緒に声を上げていきたい。連帯から、連鎖へ。「虎に翼」が広げたのは、共感と支援の輪でもあった。
そして終盤では、人の幸せに決まりきった形などないということを描いてみせた。家族信仰の強いこの国で、家族が全員にとって安全な場所ではないことを美位子(石橋菜津美)の父親殺しを通して訴え、親から解放される自由を美雪(片岡凜)に託し、血縁よりも尊い絆を梅子(平岩紙)と道男(和田庵)によって証明した。
この記事に関連するニュース
-
【流行語大賞】「はて?」朝ドラ「虎に翼」ヒロイン、男性社会と権威主義に斬り込む/ノミネート
日刊スポーツ / 2024年11月5日 14時1分
-
流行語大賞候補 ドラマ関連3語選出 「倍返し」以来11年ぶりの大賞へ…「虎に翼」「地面師たち」の名言
スポニチアネックス / 2024年11月5日 14時1分
-
三山凌輝、初写真集がターニングポイントに 朝ドラの反響に喜び「自分と重なる部分が多かった」
シネマトゥデイ 映画情報 / 2024年10月19日 12時21分
-
好きな「朝ドラ主題歌」圧倒的1位は2010年のヒット曲!3位には「虎に翼」主題歌
よろず~ニュース / 2024年10月19日 11時30分
-
主演の橋本環奈さんは何も悪くない…NHK朝ドラ「おむすび」が絶不調なのは、すべて「虎に翼」のせいである
プレジデントオンライン / 2024年10月16日 17時15分
ランキング
-
1山梨・長崎幸太郎知事が富士山登山鉄道で反対団体から聞き取り 「実験台にするな」批判も
産経ニュース / 2024年11月13日 17時13分
-
2切り干し大根の栄養は生の大根の倍以上?切り干し大根のおいしい食べ方・レシピ
楽天レシピ デイリシャス / 2024年11月12日 9時0分
-
3【物議】スーパーのレジに「家族全員で並ぶ」アリorナシ? SNS「迷惑」「邪魔」批判続出も「何が問題なの?」反論も
オトナンサー / 2024年11月13日 22時10分
-
450代になったら要注意「足を守る」正しい歩き方 人間の足は50年で「耐用年数」を過ぎるという
東洋経済オンライン / 2024年11月13日 7時20分
-
5“4人家族で食費は月1万6000円”論争、「絶対に無理」「ぜんぜん余裕」それぞれのワケ
日刊SPA! / 2024年11月13日 15時52分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください