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近鉄16000系、南大阪線・吉野線「最古参特急」の今 「吉野特急」の元祖として観光と通勤両面で活躍

東洋経済オンライン / 2024年11月9日 6時30分

デビュー前年の1964年10月に東海道新幹線が開業。近鉄はそれまでの名阪特急の優位性が失われることとなり、新幹線と接続する名古屋・京都や、大阪から自社線内の観光地に誘客する特急ネットワークの構築に舵を切った。吉野方面は京都から南下する京都線・橿原線の特急に乗り、現在の橿原神宮前で吉野特急に乗り換えてもらう戦略だ。

狭軌版の「新エースカー」

16000系は1977年にかけて9編成が製造された。大阪線など標準軌の11400系(愛称は「新エースカー」)の狭軌用の位置づけとなる。基本的に制御電動車とモーターが付いていない制御車の2両編成で、第8編成のみ4両固定で製造された。続いて1981年に実質的に16000系の第10編成となる16010系の2両編成1本が増備された。

登場時は、特急車両としては珍しく全編成とも出入り口のデッキがなく、ドアから直接客室に入る構造だった。のちのリニューアル工事で側面の一部ドアの撤去やデッキ仕切りの新設、シートの取り替えといった変更が加えられた。

運用面で長く携わった古市検車区天美車庫の門垣泰功さんは「朝の通勤ラッシュ時は8両編成でも満席になった。桜の季節には長い検査期間に入らないように調整して22両をフル出庫させていたが、それでも輸送力が足りないくらいだった」と最盛期を振り返る。16010系については「新入社員のときに橿原神宮前―吉野間を『お召し列車』として走らせるためにワックスでピカピカに磨いた思い出がある」という。

1990年にさくらライナー、1996年にACE、2010年にAceと、南大阪線・吉野線に後輩の特急車両が登場すると16000系は活躍の場を減らしていくことになる。

第1~第3編成は大井川鉄道(静岡県)に譲渡された。現在は第3編成のみが近鉄特急の長年の伝統だったオレンジと紺のカラーリングのまま、南海電気鉄道の高野線からやってきた21000系「ズームカー」とともに普通電車として走っている。

近鉄の特急車両は2015年末以降を「クリスタルホワイト」と呼ぶ白をベースとした新塗装に変更。16000系も2016年以降順次塗り替えられ、イメージを一新した。

営業用車両は残りわずか

そして第4編成以降も徐々に姿を消している。第4~第6編成はすでに廃車になった。2024年11月初旬の時点で、第7編成は定期営業運転を外れた「運用予備」、4両の第8編成は「休車」の扱いになっている。近鉄は2024年10月、11月下旬に第7編成の大阪阿部野橋―吉野間の乗車体験などを盛り込んだツアーを実施すると発表。同編成の完全引退も近いとみられる。

一方、第9編成と16010系は現役で活躍中。技術管理部の奥山元紀さんは「16000系は地味な存在だが、近鉄特急のネットワーク構築に貢献した。吉野にお出かけの際は、行きは青の交響曲、帰りはレトロな雰囲気の16000系といった具合に乗り比べて楽しんでもらいたい」と話す。

大阪阿部野橋―吉野間64.9kmをすべて乗り通しても運賃に追加する特急料金は520円。都会の高架区間から、のどかな田園地帯、そして山の中へと景色が変遷していく。昭和生まれの近鉄特急の旅を体感するにも絶好の路線といえそうだ。

橋村 季真:東洋経済 記者

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