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「幸せになってほしい」は"有害な言葉"である理由 人生が「なぜか満たされない」ものになる本当の訳

東洋経済オンライン / 2024年11月11日 8時30分

(写真:Mills/PIXTA)

人間関係の些細なすれ違い、職場での小さなトラブル、子供の頃や学生時代の苦い思い出……「えっ、そんなことで?」と思うような出来事が、実はあなたの人生に重大な影響を与えているかもしれません。イギリスの心理学者メグ・アロールの著書『なぜか「なんとなく生きづらい」の正体』(野中香方子訳)は、近年、心理学や臨床心理の領域で注目され始めた“小さな心の傷”=「スモール・トラウマ」とその対処法に光を当て、世界40カ国以上で刊行される超話題書となっています。同書より、競争が激化する現代社会ならではの「スモール・トラウマ」を引き起こす原因と対処法を、一部抜粋・編集のうえご紹介します。

ただ幸せになりたいだけ、という問題

「ただ幸せになってほしい」というのはありふれた言葉で、無害なだけでなく、温かく、思いやりがあり、相手の支えになるように思えます。けれどもこの言葉は、現代において最も有害な言葉の1つかもしれません。そう聞いて驚く人もいるでしょうが、誰か、あるいは自分自身が幸せになることを望むのは、根本的に間違っています。それは子どもに向かって、「この上なく美しいチョウを捕まえてきて、瓶に入れて、いつまでも飼いましょう」と言うようなものなのです。

チョウはもちろん実在し(ここで言っているのはごく普通のチョウのことで、希少種のことではありません)、 捕まえて瓶に入れておくことはできますが、そう長くは生きられないでしょう。必然的にあなたはチョウを失います。それなのに、あなたが愛する人は、この世で何より素晴らしいことはきれいなチョウを飼うことだと言い続けるのです。

永遠の幸せを求めることはスモール・トラウマになり得ます。なぜなら、そうすると人は生涯、自分は何かが足りないと思い続けることになるからです。両親があなたに望むものを、あなたが決して手に入れられなかったら、あなたは完全な敗北者なのでしょうか?

いえ、そうではありません。だからこそ、幸福の作用を正しく理解することがきわめて有益なのです。

快楽の踏み車

「快楽順応」は「ヘドニック・トレッドミル(快楽の踏み車)」とも呼ばれ、幸福感は経験するたびに薄れていくことを指します。幸福感を追い求めるのは、先ほどのチョウを捕まえようとするのに等しく、これを「虹を追う」と表現する人もいますが、その表現は必ずしも正しくありません。

なぜなら幸福感は実際に経験できますが(チョウを捕まえることは可能です)、虹を追いかけても、それを摑むことは決してできないからです。幸福は幻影ではなく、現実に経験することなのです。しかし、束の間、幸福感に満たされても、すぐ元に戻ってしまう、というのが快楽順応の考え方です。さらに言えば、人は、同じ源泉からもたらされる幸福感に慣れ、時とともにその幸福感は薄れていきます。

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