「家父長制」は不変なのか?長い歴史から紐解く 世界各地を訪ね歩く科学ジャーナリストの視点
東洋経済オンライン / 2024年11月12日 17時0分
家父長制は人類誕生のときから続く不可避なものなのか?世界各地を訪ね歩いた科学ジャーナリストのアンジェラ・サイニー氏が上梓した『家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか』を一部抜粋・再構成し、家父長制の歴史を紐解きます。
移動を続ける人類
人類の歴史は絶え間ない移動の物語だ。あちこちに人が移動し、新しいアイデアや技術を運んできた様子からもそのことがわかる。だが、人類の歴史は、他者を思いどおりにしようとする人々の物語でもあった。
【写真】『家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか』(アンジェラ・サイニー)では、家父長制の歴史を紐解く
世界最古の国家は、ジレンマに陥っていた。国家は今でこそ、心強く確固たる存在に感じられるが、かつてはゼロから構築しなければならないものだった。
国家が抱える課題は、条件が気に入らないからといって人々が国境の外にふらふらと出ていかないように説得することだった、とアメリカの人類学者、ジェームズ・スコットには教えられた。スコットは、初期の国家が登場した経緯とその拡大を促した要因の研究に生涯を捧げてきた研究者である。
人口がいなければ、国家の力は失われる。だから、人々は何よりも貴重な資源だった。
スコットは古代メソポタミアに注目していた。ユーフラテス川とチグリス川に挟まれた流域で、肥沃な三日月地帯の一部である。
歴史学者によると、この場所が人類の文明の発祥地だと言われており、現在のトルコ、シリア、イラク、クウェートの一部にあたるこの地に、アテネの黄金時代より3000年ほど前、シュメール人が世界最古の「本格的」な都市とされるものを築いた。
彼らは小さなダッシュ記号のような印が並ぶ楔形文字を生み出し、それは世界最古の書き言葉と言われている。シュメール人に続いて、アッカド人、バビロニア人、ヒッタイト人、アッシリア人がこの地を支配し、やがて古代ギリシャが繁栄した時代と重なった。
スコットの説明によると、こうした初期の国家に暮らす人々は、国家の外に暮らす人々に比べて、予測可能な安定した生活を送っていた可能性がある。だが、ほかのさまざまな点では、厳しい生活でもあった。
不平等と家父長制の裏にある「人口」
比較的自由な狩猟採集社会とは異なり、穀物に依存した限られた食生活が主流となり、人々は大量に保存された穀物を一定の割合で分け合った。若い男性はいつでも戦場に赴くことを期待され、死の危険に直面していた。若い女性は、できるだけ多くの子を産むべきだという圧力にさらされていた。
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